さらに同年、障害者の社会参加のための国家戦略5ヶ年計画に基き、運輸省によるアクセシビリティの確保を目的とした交通政策である「アクセス・フォー・オール(全ての人のためのアクセス)」が発表された。具体的かつ基本的な原則を明確にした交通に関する重要な政策として位置づけられている(表3-2-2)。
2]カナダ人権委員会
カナダにおける交通のアクセシビリティ確保は、上述のとおり人権法の理念に基づいている。政府機関であるカナダ人権委員会(Human Rights Commission)は、カナダ人権法に基いた差別問題に関する苦情処理を行っており、主としてアフォーダブルハウジング(妥当な住宅)提供の条項およびカナダ交通法Part5にもとづいた運輸関連問題を扱っている。カナダ交通法には2つの実施規則が定められており、ひとつは、交通従事者へのトレーニング、2つはモビリティのバリアを取り除くことである。
カナダ交通法(CTA: Canadian Transportation Act)では序文に「あらゆる輸送手段はモビリティ上の障害があってはならない」と明記している。また、この法律の執行権をCTA(Canadian Transportation Agency)に付与している。
3]今後の計画および課題
運輸省は、規則等の策定においてはトップダウンではなく、業界団体や消費者と協議することが大切であると認識している。その理由として、協議により作り上げたものは遵守しやすいということが挙げられる。一方で、介助者の航空機搭乗料金の無料化(現行は国内およびアメリカ国内は50%割引)の問題など、何年も協議が続けられているが合意が見出せない問題もある(なお、航空機以外は、介助者は無料で同乗できるようになっている)。
目下のところ、連邦としてADAのような法律の策定は考えていない。交通の分野においても、法規制よりも、業界ごとの任意基準によりアクセシビリティを確保していく方針である。今後も交通事業者とのネゴシエーションを重視し、規則についても柔軟な対応で解決策を見出す方針である(後述のコード・オブ・プラクティス参照)。州レベルではオンタリオ州で、ADAに類似した障害者差別禁止法の法制化の動きがあったが、十分な支持が得られず選挙後に取り下げられた経緯がある。
(5) 州レベルの取り組み
連邦政府レベルでの流れを受けて州単位でも、すべての州および準州で障害者の差別を禁じた人権法が制定された。中でもブリティッシュ・コロンビア、オンタリオ、アルバータ各州では障害者の交通のアクセシブル化に力が入れられた。
例えばBC Transit(ブリティッシュ・コロンビア州)では、1989年に「完全なアクセシブル化」の考えが示され、1990年9月にはバンクーバー地域で86台のリフト付きバスが22路線で運行を開始した。