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拿捕が「十分な(adequate)根拠」(106条)を伴わないときに、拿捕を行った「国」が、責任を負う。軍艦による臨検は、「十分な(reasonable)根拠」(110条1項)がない限り正当とは認められないが、疑いに根拠がないことが証明され、かつ、臨検を受けた船舶が「疑いを正当とするいかなる行為も行っていなかった」とき、外国船舶は、損失または損害に対する補償をうける(同条3項)。追跡権は、外国船舶が法令に違反したと信ずるに「足りる十分な理由(good reason)」があるときに行使できるが、「正当とされない(do not justify)状況」での領海外での停止または拿捕について、船舶は損害や損失に対する補償をうける。(111条)。

これらの執行措置に起因する損害や損失に対する責任に関する条文について、232条の責任規定を解釈するに際して参考になるのは、次の点である。

第一に、執行措置に関する要件の規定ぶりが、国連海洋法条約においては、一定していないことである。「十分な根拠」とか「信ずるにたりる証拠」などの文言について、どの程度その具体的な内容が特定された上で規定されているかは明らかではない。その意味では、これらの文言の内容の確立は、後続の実践に依存するともいえる。第二に、232条では、「措置が違法」である場合と、または、「合理的に必要とされる限度を越える」場合とが、各々独立に規定されている。これに比して、執行措置に起因する損害に関する責任を規定する他の条文では、このような、「違法」要件と必要性要件とが独立に規定されている例はない。第三に、領海の無害通航船舶に対する執行措置や、排他的経済水域における生物資源の開発・利用に関わる執行措置については、「必要な措置」をとることは規定しているものの、執行措置に起因する損害についての固有の責任規定はない。その意味では、海洋の環境保護及び保全に関する執行措置について、232条という固有の規定があることからすれば、そこに規定される責任規則が、国家責任の一般原則や、それの適用を原則として確認する304条とは異なり、固有の内容の責任規則として規定されているという推定が働くともいえる。第四に、232条と同種の責任規定としては、海洋の科学調査に関する措置についての責任規定があるが、これは、上記のように、「条約違反の措置」という条約上の「違法性」のみを特に責任発生要件として規定している。

 

 

 

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