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船舶とが、時間的にも距離的にも、近接した位置を保つことによって、沿岸国の属地的管轄権行使の公海への例外的な伸延の継続性を保つのと同時に、沿岸国の権限行使の濫用に歯止めをかけることを意図したものであるといえる。

他方で、本件で見られるように、麻薬取引等で国外の共犯者と共謀して不正輸入を企てる者に対しては、取締りの効果を上げるために、公海上での取締りが必要となってくる。特別の関係条約に基づくか旗国の同意がある場合にしか、公海上で強制措置をとることのできない現行制度の場合、本件のように旗国の事前同意を得ていない権限行使に関しては裁判所が認めたような追跡権の行使要件の緩和が必要である。constructive presence理論により母船と作業船舶との関係を広く解することで、領海内に入ることなく陸揚げ船を用いて不正輸入を行おうとする船舶と陸揚げ船との連関を肯定するのも、その一つの方法である。また、本件のように、レーダー等の機器の利用により、母船と陸揚げ船との関係の特定が具体的に可能な場合、公海で航行の自由を享有している無関係な他の船舶との峻別は比較的容易であり、その範囲で追跡の継続性の要件を緩和することも可能であろう。さらに、同様の理由で、停船命令を無線で行うことに関しても、被追跡船の特定が明確である場合において、命令の発し方をあくまで物理的な聴覚的・視覚的方法に限定する根拠は大きくないように思われる。しかし、あくまで追跡権が公海での旗国管轄主義の例外を構成するものである以上、要件の緩和は、具体的な個々の状況に対応したものである必要があろう。

 

(1) 小田滋『注釈国連海洋法条約』上巻、1985年、234頁。

(2) International Law Reports, vol.91, 1993, p.372 ff.

(3) UN Office for Ocean Affairs and the Law of the Sea, The Law of the Sea: Current Developments in State Practice, No.III, 1992, p.79.

(4) Lim, Raymond S.K., “EEZ Legislation of ASEAN States”, International and Comparative Law Quarterly (hereafter cited as ICLQ), vol.40, 1991, pp.182─3.

 

 

 

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