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周囲の状況、当局がレーダー等でポセイドン号の同一性を常に把握しており、かつデルヴァン号とポセイドン号との間の連関も同様の方法で確認していたこと、さらにポセイドン号が一度も他国の領海内に入っていないことを理由としてポセイドン号への追跡の継続を認めている。この点については、追跡は継続的でかつその開始は逃走開始後即時でなければならないとする判例・学説(11)と、追跡の開始時期を被追跡船舶が逃走を開始した時点とはとらえずに一定の時間の幅を許容する判例・学説(12)とがある。本件の解釈は後者をとっているといえる。

停船命令の発し方に関して、公海条約では視覚的または聴覚的停止信号を被追跡船舶が視認しまたは聞くことができる距離から発することを要件としている。国際法委員会の当該条文の審議においては明示的に無線の使用による停船命令を除外し、飛行機からの停船命令に関してもこれを否定している(13)。本件で停船命令が無線を用いて行われたことについて、判決では、公海条約が締結された時点から現在までの間に技術が進歩したため、無線による命令の発信も肯定できるとしている。しかし、国連海洋法条約においても同一の規定がおかれていることから見ると、停止信号は視覚的聴覚的信号を被追跡船が視認しまたは聞くことができる位置から発せられなければならないという要件には変更がないと考えられる。判決では、命令を発した時にヘリコプターが至近距離にいたという事実を組み合わせることでこの要件をみたそうとしている。

以上のように、本件での裁判所の立場は、追跡権行使の各要件を広く解して、イギリス当局のとった行動を容認している。

追跡権は、沿岸国の管轄権行使可能な水域内で開始された管轄権行使を、その継続として本来沿岸国の属地的管轄権が及ばない公海上に行使することを、例外的に認める制度である。そのため、公海自由原則を侵害しないために、その行使には厳格な要件が課されている。本件で問題となる、追跡の開始時点を逃走を開始して即時とすることや、停船命令を無線で発することを否定して被追跡船舶が視覚的または聴覚的停止信号を視認または聞くことができる位置から発しなければならないとする要件は、追跡を行う船と被追跡

 

 

 

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