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(FIG.-14)

そういう事で、非常に大量にある、壊れやすい、そういう2つの性質から、メタンハイドレートはここに掲げた3つの点で、我々は注目している訳です。

 

第1に近未来の天然ガス資源としての可能性ですね。これは確かにリソース(資源)としては非常に分散しているけれども、しかし、非常に広く分布している。消費地に近いという事もあってこれは天然ガス資源として有望、期待される。

2つ目は、地球環境へのインパクト。これはこの前に示しました炭素サイクル、カーボンサイクルから言っても無視できない非常に大きなカーボン・シンクである、しかも壊れ易いという事から地球環境の変動へ非常に大きなインパクトを持っているに違いない。

3番目はもう少しshort-termの話で、海底傾面の不安定化。ハイドレートが分解すれば、斜面が崩壊して大きな災害をもたらす恐れがある、そういう点からGeo-hazard(地盤災害)の引き金としての注目されています。

 

この3つの点からハイドレート研究が現在アプローチされていますが、ここでは2番目のenvironmental impactの点でもう少しお話を続けて行きたいと思います。

 

(FIG.-15)

先ずメタン・ハイドレートの分解が引き起こすであろう結果で、どんな事が予想されるかと言うと。

 

(FIG.-16)

これはCONCORD(注:ライザー掘削・国際会議、1997年7月、東京代々木で開催)に載せた図を焼き直したものですけれども、まず大量のガスと水が堆積物に供給される訳です。これ170倍というガスが出て来ますので、それがsediment(堆積物)を流動化する。その流動化に拠って傾面が不安定になって非常に大規模な地滑りが起きる恐れがある。そもそもハイドレートの厚さは、数100mですから厚さ100mという規模の地滑りが起こる可能性がある訳です。

それから2番目に海水。海洋にメタンガスが供給される事によって、海洋中で硫酸塩を使って酸化される。逆に硫酸塩が還元される。そういう海洋の無酸素化、貧酸素化がメタンの放出によって進むという事が予想される。

3番目に今度は大気までメタンが放出されますと、海水を通って大気まで行ったメタン。これは非常に強い温暖化greenhouse effect(温室効果)に拠って温暖化を促進させますが、それが再びメタン・ハイドレートの分解を促すと、こう言ったPositive正のfeed-backが掛かってメタン・ハイドレートの分解と温暖化が加速度的に、言って見ればカタストロフィックに進行するというシナリオが想定されます。

 

(FIG.-17)

それを地質を研究するサイドから、これを実証的にそれを調べなければいけない。その為の有効な手掛かりが、炭素の同位体、あるいは酸素の同位体といった海洋の環境をよく記録しているパラメーターですが、先程の図にも示しましたようにメタン・ハイドレートの中の炭素は大変C13(炭素13)に乏しい。マイナス90からマイナス60という大変C13に枯渇したものです。これに対して海洋は、ゼロパーミル程度プラス1、プラス2、マイナス1、マイナス2程度でありますので、これらと比べても極端に軽い。で、試算をしてみまして、堆積物中に入っているハイドレートの10%程度が分解して海洋に出たとして海洋水全体とhomogenize(均質)したと、そういう計算をしてみますと、それで海水の炭素同位体は3パーミル小さくなる、という事が計算されます。ゼロパーミルであったら、マイナス3パーミルになるということで、これは実際、全部の海洋とmixするのではなくて、部分的にmixするとすれば、この効果はもっと大きいという事が言えるかと思います。

 

 

 

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