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(1)一般事情
 モロッコ王国は、国土面積(モーリタニアと領土係争の対象となっている西サハラを除く)が446,550?2(日本の1.18倍)、人口2,762万人(96年央推定)で、首都をラバト(首都圏人口:122万人)におく。
 気候は中、北部地方は地中海気候で、年間を通じて温暖な気候で、モロッコの中央を走っているアトラス山脈の北部は年間750?を超える雨量になる。
 アトラス山脈の南部と大西洋側は半乾燥性の気候で、雨量は200〜300?程度で穀物生産には灌漑なしでは定期的収穫は難しい。
 国土の北、西部は地中海、大西洋に面し、海岸線は全3,446?の長さに及んでいる。
 人種はアラブ人(65%)、ベルベル人(35%)で、言語は公用語のアラビア語のほか、フランス語も広く使用されている。
 宗教はイスラム教である。モロッコは、61年以来ハッサン国王の下、政情は安定的に推移しており、90年代以降は民主化も進展している。
 92年にはモロッコ型民主主義の定着を図るため憲法改正、8年振りに地方選挙、93年には9年振りに総選挙を行い、さらに94年には政治犯の恩赦を実施し、モロッコの人権政策面での進展を広く国内外にアピールした。
 外交では、非同盟、穏健派の政策をとり、マグレブ諸国や西側諸国との協調政策をとっている。
 マグレブ諸国の結束を図るための大マグレブ構想に積極的に関与しており、88年5月にはアルジェリアとの外交関係を再開、89年2月にはマグレブ・サミットを開催し、アラブ・マグレブ連合条約に調印している。
 更に、96年2月にはEUとパートナーシップ協定および漁業協定に正式調印している。  また、君主国として湾岸の君主制産油国と緊密な関係にあり、アラブ世界で影響力を有している。
 ただ、国連の努力にも係わらず未解決となっている西サハラ帰属問題が課題である。  経済面では、累積債務対策として83年には構造調整政策をとり、90年代から国有企業の民営化、為替自由化などの経済自由化政策を取り入れている。
 対外債務は、92年までの6次の繰り延べを経て93年から返済が正常化している。
 政府は、95年末には新投資憲章を施行し、外国直接投資の流入増を図っている。
 また、97年にはEUとの自由貿易協定が発効し、EU市場との間で貿易・投資の拡大が期待されている。
 モロッコは、農産物、鉱産物などの一次産品への依存度が高いため、経済動向は天候、国際市況などの外的要因に支配され易い。
 94年の農業生産は好調であったため、経済成長率は約12%を記録したが、95年は干ばつに影響されマイナス7.6%の成長となった。
 しかしながら、96年は農業生産の回復等により12%の成長を遂げている
。  このような状況に対応するため、政府は83年以降、世銀、IMF勧告に基づく経済構造調整計画を推進、外資の導入や経済自由化などを通じ産業の多様化が進んでいる。
 これにより、燐鉱石の生産・輸出が柱であった産業は、肥料や各種燐酸製品、農水産加工品、セメント、繊維・皮革製品など工業製品の生産が活発化し、近年は製造業部門のGDPへの寄与率が高まってきている。
 95年のGDPの産業別構成は、農林水産業11.5%、鉱・工業34.0%、サービス業54.5%となっている。
 なお、世銀の推定によるとモロッコのGDPは、1985〜95年の期間に年率2.9%の割合で増加しており、実質成長率は94年11.5%の増加、95年マイナス7.6%(干ばつに因る)、96年10.3%の増加となっている。
 農業部門(林業・漁業を含む)は、94年にGDPの19.5%、95年には11.5%を占めている。  85〜95年の期間に、GDPは年率0.4%の割合で増加、94年は63%の増加となっているが、95年は干ばつに因り45%の減少となっている。
 このため、95年には約360万トンの穀物の輸入が必要となった。
 なお、この部門には経済活動人口の40.7%が従事している。
 主要農作物は小麦、大麦、とうもろこし、柑橘果物、野菜などである。
 柑橘類とトマトは重要な外貨獲得源(柑橘類の94年の輸出は輸出総額の3.8%)となっているが、穀物、砂糖、その他食料品などの大部分を輸入に依存している。
 サハラ砂漠側の乾燥地帯では、羊、山羊、牛を中心とした畜産業が盛んであるが、家畜製品、特に牛乳などの酪農製品は国内需要を満たすことができず、かなりの数量を輸入に依存している。
 政府は生産拡大を図るため、各種の政策を講じており、500万ヘクタールに及ぶ広大な牧草地の開発も計画している。
 林業では、森林面積は900万ヘクタールで、その大部分は国有林である。
 コルクは林産品の中では最大の輸出商品となっている。
 燃料用木材は概ね自給できるが、建設用木材、坑道用木材などは輸入に依存している。
製材用、坑道用、パルプ用の樹脂質木材の増産を図るため、現在、大規模な植林計画が推進されている。
 鉱・工業部門(鉱業、製造業、建設業、電力を含む)は、95年GDPの34%を寄与しており、経済活動人口の24.2%がこの部門に従事している。
 85〜95年の期間に、GDPは年率2.4%の割合で増加している。
 鉱業は、経済活動人口の僅か1.1%程度を雇用しているに過ぎないが、モロッコ経済にとって最も重要な部門となっている。(鉱業は94年GDPの2%を寄与している。)  鉱産物としては、燐鉱石、鉄鉱石、鉛、亜鉛、銀、銅などを産出しているが、最も重要なのは燐鉱石である。
 燐鉱石は、世界最大の埋蔵量(推定180億トン)を有し、産出量は米国、ソ連に次いで第3位、輸出量では世界第1位を占めている。
 採掘、精錬、輸出などの業務は、国営の燐鉱石公社(Office Cherifien des Phosphates “OCP")が担当している。
 国内消費が少なく、産出量の大部分は日本、スペイン、フランス、イタリア、ベルギー、メキシコ、ポーランドなどへ輸出されている。
 燐鉱石、燐酸の輸出は、95年輸出収入の17.7%を占めている。
 石油の産出量は極めて少なく、サウジアラビア、クウェート、イラクなどからの輸入で賄っている。
 95年には石油輸入は輸入総額の14.2%に達している。
 政府は、石油、天然ガスの探査、試掘などエネルギー資源の開発活動を外国企業との合弁で積極的に推進している。
 製造業は、95年GDPの約20%を占めており、現在実施中の経済開発計画の中でも最重要視されている部門の一つである。
 経済活動人口の15.5%が、この部門に従事しており、85〜95年のGDPは年率3.1%の割合で増加している。
 主な業種としては、食品加工、飲料・タバコ、繊維・織物、皮革製品、化学などである。
 食品加工業では、製粉、精糖などの国内向けのほか、果物ジュース、魚・野菜・果物缶詰など輸出を主体とする生産も行っている。
 繊維工業は、投資法の改正により民間投資が活発化した結果、輸出もできるまでに成長している。
 繊維生産は、国内市場とフランスをはじめとするEC諸国を中心とした海外市場の需要によって支えられている。
 化学部門は、燐酸と化学肥料が中心で、両者の輸出は94年輸出収入総額の約18%を占めている。
 これは、国内産の燐鉱石に付加価値を付けて輸出するという政府の方針に沿って、同部門への投資が急増し、生産が飛躍的に伸びたことによる。
 機械部門では自動車組立であるが、このほか、セメントなどの建設資材、製陶、製紙などの生産も順調に伸びている。
 製造業は、カサブランカ(冶金、自動車組立、製糖、医薬品)、フェズ、ラバット、ムハマディア(繊維・織物)、サフィ(化学品、肥料、魚加工)およびアガディール(魚加工、缶詰工場)に集中している。
 古い歴史と文化を誇るモロッコは観光資源に富み、フランス、スペイン、ドイツ、英国、イタリアをはじめ世界各国から観光客が訪れており、国際収支の改善に貢献している。
 ただし、93〜95年は観光人気の下降と94年の観光客殺害事件などの影響をうけ、観光客は激減している。(95年観光収入11億ドル)

 

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