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 つまり、マイクロ波の散乱の強さを観測することで、海上波の風速を推定することができるのです。風向についても、マイクロ波の散乱と波の方向との因果関係を利用して導くことができます。こうして観測される海上風データの精度は、ブイや船舶の観測データとの比較で、誤差が風速で約2?/秒、風向で約20度となります。
 観測例として、図2に昨年フィリピンの東方海上で発生した台風周辺の風について、散乱計が行った観測を示します。台風の中心位置とその周辺を渦巻く風の様子がはっきりと示されています。
 マイクロ波は、雲が有る無しにかかわらず、大気を通り抜けることができるため、天気に左右されず海上の観測が可能です。この点でマイクロ波散乱計は「全天候型」のセンサであるといえます。
 散乱計を搭載した衛星には、1996年の夏に日本が打ち上げた衛星「みどり」がありました。図2の例も「みどり」搭載の散乱計が観測したものです。残念ながら「みどり」は、1997年6月に発生した太陽電池パネルの故障により、運用は中止されましたが、運用中に観測され蓄積されたデータは、調査研究に利用されています。
 この他、欧州が打ち上げた衛星ERS(遠隔探査衛星)にも散乱計センサが搭載されており、これは現在も運用されています。
 「みどり」とERSに搭載された散乱計は、衛星軌道に沿ってそれぞれ幅1,200キロメートルと500キロメートル、水平解像度は25キロメートルと、広範囲を高密度に観測することができます。

 マイクロ波散乱計の活用

 これまでブイや船舶の観測によってしか得られなかった数少ない海上風データが、マイクロ波散乱計によって、全地球規模に即時的に利用が可能となりました。
 即時的にデータが得られる効果は大きく、大気現象の解析、そして洋上で気象災害をもたらす恐れのある現象の監視に利用できます。
 例えば、台風の解析はこれまで雲画像などを利用して行っていましたが、図2にも示したように散乱計データは台風の中心と周辺の風の強さを解析する新たな資料となります。
 また、データが広範囲なため、気候変動の調査・監視にも活用できます。例えば、今日エルニーニョ現象が注目されていますが、海流を起こす海上風は、エルニーニョ現象の発生と関連があると考えられています。散乱計の海上風データは、その関連を調べる貴重な調査資料といえます。

図2 衛星「みどり」搭載の散乱計センサが観測した台風周辺の風の様子

矢羽はノット表示した。データの解像度は25??と、かなり高密度である。
場所はフィリピンの東方海上、時刻は1997年6月17日10時45分(日本時間)ごろ。

 

 

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