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海の気象

人工衛星による海上風の観測

太原 義彦 
(気象庁予報部 数値予報課技術専門官)  

 はじめに

 大気や海洋観測の分野における近年の人工衛星による観測技術の発達はめざましく、今ではなくてはならない存在になっています。
 そうした衛星の代表的なものとしては、雲画像を観測する静止気象衛星「ひまわり」があり、また静止衛星より低い軌道を飛び、より高密度に大気や地上を観測する極軌道衛星があります。
 ここで紹介するのは、極軌道衛星に搭載されている「マイクロ波散乱計」と呼ばれるセンサです。
 マイクロ波散乱計は、1990年代に入ってから実用化された比較的新しいセンサで、海上を吹く風を上空から高精度に観測することを目的に考案されました。そして、それが観測するデータは、天気予報のための数値予報や気候変動の調査・監視など、今後その利用が期待されています。

マイクロ波散乱計による海上風の観測

 散乱計センサは、マイクロ波(マイクロ波とは、赤外線よりも長い波長を持つ電磁波の一つ。マイクロ波を利用したセンサとしては、他にマイクロ波放射計や画像レーダーなどがある)を上空から海面へ斜めに照射し、その反射の強さを観測します。図1にその模式図を示します。斜めに照射するという点がポイントで、海上を吹く風が弱いとき水面に波があまりたたず、照射したマイクロ波の多くは、衛星の反対方向に反射して、センサにはほとんど返ってきません(図1右)。
 逆に風が強いとき、水面に風浪が数多くできるので、マイクロ波は散乱され、その散乱の一部がセンサまで返ってきます(図1左)。



図1 マイクロ波散乱計による海上風観測の模式図
散乱計はマイクロ波を海面に照射し、海面にできる風浪に散乱され返ってくる量を測定する。
海上波が強いほど反射量が多くなる。
(NASA/ジェット推進研究所の作成のCD-ROMより)
 
 

 

 

 

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