日本財団 図書館


Thank god for giving us the pleasure of sports!!

SPORTS FOR ALL NEWS

スポーツ・フォア・オール ニュース

1988 NOV.

vol.27

 

SSFスポーツフォトコンテスト'98

Best Woman Photograph

KOJI AOKI (JAPAN)

“Hot on Ice”

 

「総合型地域スポーツクラブ」に新展開アリ

NPO法とPFI推進法を組み合わせた官民一体の新手法!

三重大学 水上博司

 

総合型地域スポーツクラブというのは、一中学校区をエリアとして地域住民が主体となって設立する、いわば欧米スタイルの会員制クラブである。地域住民が手作りできる、子供からお年寄りまでが、いつでも、誰でも、いつまでも、自由にスポーツ参加できる場であり、幸福感を感じることのできるコミュニケーションの場として、その存在意義は大きい。

総合型地域スポーツクラブづくりが遅々として進まないわけは、明確な将来ビジョンを描ききれないことと、自前のクラブハウスをもてないことにある。この問題を一挙に解決できる処方箋がある。官民一体となって取り組める新手法だ。

 

20年目のスポーツクラブ元年

 

昭和52年(1977)、国の補助事業として「スポーツクラブ育成推進事業」がスタートした。それから10年後の昭和62年(1987)には「地域スポーツクラブ連合育成事業」、平成7年(1996)には「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」へと展開してきた。

本格的にスポーツクラブ育成の考え方が示されて20年が過ぎた。Jリーグ発足時に打ち出された「ホームタウンを拠点に地域に根ざした欧米スタイルのスポーツクラブづくり」の百年構想からすると、100年のうちのすでに20年が過ぎたことになる。

ところが、これまでの20年を振りかえると、スポーツ教室からスポーツ仲間を育成するスタイル、いわば「三鷹市方式」から脱しきれていない。

スポーツ参加者の量的拡大の指標の一つとされるスポーツクラブ加入率は、横ばいで推移したまま、学校では生徒の運動部離れが進み、地域にいたっては、○○町民体育祭は参加者が同じ顔ぶれの金太郎飴どころか、参加者が減少傾向にあるという。しかし、スポーツクラブ育成の課題は山積みしていながらも、一方で新たなクラブシーンが少しずつだが地歩を固めつつある。「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」の、最初のモデル指定を受けた愛知県半田市の「成岩スポーツクラブ」に代表されるように足場は着々と固まってきている。20年を過ぎたスポーツクラブづくりは、やっとその第一歩を踏み出したといえよう。ようやくスポーツクラブ元年を迎えたのだ。

 

ビジョンづくりのシンクタンクが必要

 

北九州市の「大谷コミュニティスポーツクラブ」は、平成7年8月に設立された。だが、設立までの道のりは平坦ではなかった。

大谷中学校区の地域住民には、当初、「なぜここの中学校区なのか?」「なぜ、総合型が必要なのか?」という困惑があった。これは、行政担当者に「総合型地域スポーツクラブ」がどういうものなのかを説明するだけの情報が不足していたことが大きい。たしかに、クラブづくりの明確なビジョンとそのメリットを示さないことには、地域住民を動かすことはできない。住民主導のクラブづくりなど不可能といってもいい。行政担当者、住民双方の努力の甲斐あって設立にこぎつけたが、「情報不足」という課題をつきつけた形になった。

こうした課題を受けて、国はやっと重い腰をあげ、今年(平成10年)9月に「総合型地域スポーツクラブ」のパンフレットを作成している。「21世紀のスポーツシーンにどんな夢をもっていますか?」という呼びかけで始まるパンフレットは、ビジョンづくりの大切さを訴えている。

しかし、今後は一歩進めて地域の実情にあわせたうえで、常識に縛られないビジョンづくりが必要になってくる。地域で「どんな夢を描くのか?」という問いかけに答えを出すには、行政、学校、少年団、体育指導委員をはじめ、さまざまな地域の団体を巻きこんだシンクタンク(頭脳集団)をつくる必要があろう。そしてそれが、クラブづくりの中核となる推進母体とならなければいけない。そのためには、これからのシンクタンクに民間活力の知恵を導入すべきだ。地元レジャー産業のコンサルタント、弁護士などをメンバーに加えたシンクタンクによって、サービス経営体としてのクラブの方向性を打ち出していけるのだ。

 

クラブハウスとPFI

 

前述した愛知県半田市の「成岩スポーツクラブ」は、平成8年3月に設立された。戦後からあった「成岩地区少年を守る会」の「成岩スポーツタウン構想」をビジョンにして、学校と地域の住民が一体となって設立した会員制クラブである。

最初の取り組みは、成岩中学校の運動部の改革であった。単に学校施設を開放するという姿勢ではなく、地域でイニシアティブをとる「地域に開かれた学校」に改革したのである。これにはコーディネーターとなった教師はもちろん、学校長の強力なリーダーシップがあったという。いまでは、学校の空き教室をクラブハウスにして、受益者負担制と地域住民のボランティアシップによって、財政的にも独自運営ができるまでになっている。

 

001-1.gif

成岩スポーツクラブのクラブハウス

 

しかしながら、クラブハウスが空き教室では、スポーツをした後にヤレヤレと息をつくこと、ドイツのクラブのような「ビアホールにアコーディオン演奏が流れる」クラブライフは遠い将来像でしかない。クラブハウスは、クラブメンバーのコミュニケーションチャンスの必須アイテムである。地域の人たちが集まりやすいところ、もしくは学校の一画にクラブハウスがほしい。しかし、クラブハウス整備への公的資金の投入には「一部の特定地域だけにクラブハウスをつくっていいのか」という意見と対峙しなければならない。

こうした問題解決の糸口の一つとして、平成10年8月、自民党は「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案」(PFI推進法)を策定した。PFI(Private Finance Initiative)の考え方は、1992年の秋、英国において始まり、従来公共が対応してきたさまざまな公共施設整備の分野に民間資金やノウハウを導入するもので、公的資金の有効活用、VFM(Value For Money)の向上の実現を目指すものである。行政サイドは財政や予算制約にとらわれないため、プロジェクトが早期に実現するメリットがある。つまり、クラブハウスの建設では、計画段階から民間の資金と経営能力・技術的能力を活かし、建設後の運営では官民の役割分担を明確にして効率化を図ることができるのだ。

日本的スタイルのスポーツクラブライフは、NPO法によるクラブの法人化とPFI推進法によるクラブハウスの建設に、その可能性は広がっていくのではないか。このことを具現化できるような整備を、今後官民一体となって進めていくべきだろう。

 

 

 

目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION