航路決定への直接的な寄与という意味では(2)が重要であり、本DMDFモデルは、開氷域(Open Lead)出現の計算もできる様、水盤の形状抗力係数を密接度の関数で与える様にしている。すなわち、密接度の低い所での抗力係数が高くなる様にモデル化しているため、一端密接度が低くなると、風による力が大きくなり、密接度の高い方に集まる様になる。
しかし、氷況予測計算の精度検証を考えた場合、(2)の計算では計算領域の境界から流入、流出する氷や海流の取扱いという、新たな不確定要素を導入することになり、好ましく無い。また、使用するSSM/I氷況データの解像度は25kmと低いため、Open Leadなどの細部の比較検討ができない。従って、本研究は時間の制約もあるため(1)を行い、北極海全域の計算を行うとともに、全域の水況の傾向とともに、NSRをClose-upした比較・検討を行うこととした。すなわち、図3.2.6に示す北極海全域の計算を行い、結果については、北極海全域の他に、図中の海域1(チャクチ海、東シベリア海)、海域2(ラプテフ海)、海域3(カラ海)に分けて比較・検討する。計算格子の大きさは、SSM/Iの解像度に合わせて25km四方、格子数は304×131(7,600km×3,275km)とした。
なお、(2)の計算は本来(1)の計算と連成すべきであり、分けて議論するものでは無い。今回は計算時間が十分実用的かどうかも重要な検討事項であるが、運成計算はCPUを2個以上搭載したパラレルマシン(既に2、3百万円のものも市販されている)に最適であり、これを利用すれば、計算時間の増加は殆ど無いものと考えられる。従って、(1)の計算をすれば、計算時間が実用的かどうかの検討はできる。
計算においては、SSM/IデータからDMDFモデル計算の入力データへの自動変換プログラムを作成し、また、同様に図形出力プログラムへのデータ変換ソフトを作成して、操作性を高めた。
計算に用いたパラメータを以下に示す。
空気と水と海水の密度=それぞれ1.247,1.027×103,8.0×102kg/m3
コリオリパラメータ=各格子の緯度で決定
海氷と空気の摩擦係数=0.001
海氷と海水の摩擦係数=0.004
氷盤の形状抗力係数(密接度0の時)=1.2
氷と氷の摩擦係数=0.3
氷と陸地の摩擦係数=0
空気と海面の摩擦係数=(0.8+0.065|Va|)×10-3
海流計算の層の数=5層
(海面側から、厚さ5m、10m、18m、27m、40mの水深100mまで)
計算開始時の氷厚hi、水盤サイズdli=以下の式で与える。
hi={Cimhim+(Ci-Cim)hif}/Ci(m)
dlic=1000-950(Ci-1)(m)
ここに、him=1.3Cim+0.7
hif=0.7(Ci-Cim)+0.3
Ci=氷密接度(SSM/I観測による)
Cm=多年氷のみによる氷密接度(SSM/I観測による)
氷の初期速度=0