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工業用水が、生産増加に対して比較的低い弾力性をもち、近年の日本のように工業用水のシェアが安定的に推移していることは既にみてきたところである。しかし、このような工業用水の需要にはそれなりの対応があることを指摘しておきたい。工業生産に占める水コストは公的供給システム(水道)によるものに限れば、市民の消費生活におけるコストシェアを大きく下回って、水多消費業種でも例外ではない。こうした状況にありながら、工業用水は、農業用水の自然流量依存で有効利用が低いのに比べ格段に違う対応が現に達成されているのである。回収率は日本の場合、1975年以降、ほぼ一貫して上昇しており、業種による差はあるものの工業用水全体としてみると1977年以降70%をこえ、最近年の95年では77%に達している。このような水資源節約対応によって水資源からの新たな補給である淡水補給量は絶対量としても75年以降、長期的に減少傾向に入っている。

回収率の上昇要因としては1]地下水採取規制からのプレシャー、2]渇水への対応3]排水規制からの促進などが指摘されているが、そのいずれもが水資源の有効利用という基本的な戦略に沿うものであり、工業技術の特徴を活用したものであることは評価されて然るべきであろう。

コスト面の負担が小さいために途上国の工業用水の使用に当っては、水原単位という観念が低く、例えば、水多消費産業の代表である紙パルプ産業で日本と中国を比較すると、パルプトン当たり水消費量は日本(1989年)の120トンに対し、中国では400トンと3倍をこえる大差がある。もっとも、日本でも20年前の1970年では270トンと多く、最近の20年間の対応がかなり顕著な成果をあげていることは認められるのである。今後、途上国における工業化が速度を早めることは当然ながら予測されるわけだが、この場合、省水資源技術の援助、移転の必要性は高まろう。

 

 

 

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