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奨励賞

 

メディアの台頭による旅行業流通革命

-二層化する消費行動-

 

本庄加代子・森 信宏

 

要約

 

本論文では、旅行業における旅行会社と消費者意識の変化を「メディアの発展にともなうチャネルの変化」とそれがもたらした「二層化する消費行動」ということに焦点をあてている。旅行業市場における消費者の行動は、メディアの発達にともなって二層化傾向をたどっている。その消費者の傾向に対応している旅行会社の現状をふまえ、旅行業界の在り方を模索する。

メディアの発達は、第一段階として新聞広告を利用した無店舗販売、第一段階としてリクルート社の「AB-ROAD」にみられる、バーチャルな市場の顕在化という成果をもたらした。特にAB-ROADは、消費者が家の近所でも買うことができ、商品の比較検討が容易であるという効用をもち、旅行会社の価格を含めた商品の競争を激化させた。

また、メディア販売と海外旅行経験数には相関関係が見られ、海外旅行社の9割をリピーターが占める現在の状況では、ますますメディア販売のウエイトが高まると思われる。

この背景には、消費行動の二層化という傾向が見られる。つまり、「リピーターとメディア販売の相関関係」が意味するのは、旅行会社からの情報提供を必要としない消費者の存在であり、各種統計からもそういった消費者意識が読み取れる。この層は、実質本位で旅行の旅程、飛行機・ホテルのグレードなどを自分で判断するため、そういったコーディネート能力を旅行会社に求めず、その分低価格であることを要求する。他方、同様の統計から、多少費用はかかっても旅行会社の人に相談して、安心して旅をしたいという層も存在し、シルバー世代の旅行が活発化するにつれて、ひとつの大きな集団となっている。

今後の旅行会社の対応は、この様な二層化した消費行動への適応行動ともいえよう。

インターネットを含めたメディア販売の発達と、高度な情報提供やコンサルティングを要求する店舗販売の、それぞれがこの消費行動に対応して革新されていく。その具体的な試みとして、マップインターナショナルの「ツーリストカフェ」やHIS特化戦略、JTBの「ロイヤル倶楽部」と「格安航空券の販売」といった店舗戦略や、コンビニエンスストアやインターネットを利用するJTBの販売網の構築や三井物産の「キュリオクラブ」などがある。

無店舗販売などのメディアの台頭によって既存の業界構造が変化を余儀なくされ、また格安航空券という業界新風との相乗効果によって、消費者の潜在ニーズが喚起され、旅行会社に頼らない「自立した消費者」の存在を生み出す結果となった。その一方で従来からのカウンターセールスに対する根強い信頼性を支持する消費者の存在を確認した。これら対極的な消費者行動の二層化は、まさに流通革新によってもたらされ、さらに、新しいマルチメディアやコンビニエンスストアといった流通業態によって変化していくものと思われる。

 

 

 

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