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奨励賞

 

エコツーリズムを一過性のものにしないためには

-各アクターの役割と関係から-

 

奈良雅美

 

要約

 

観光旅行は近代以降、科学技術の発達や人々の余暇時間の増加などを背景に飛躍的に成長してきている。特に、第二次世界大戦後、大勢の一般の人々が当り前のように観光に出かけるようになってきた。しかし、観光旅行は必ずしもよい側面ばかりではない。マスツーリズムの時代といわれるようになって、特にその陰の部分にも目を向けられるようになった。例えば、ツーリストによる廃棄物や汚染の問題、交通渋滞、観光開発にともなう自然環境への極度の圧迫など、自然を破壊し、その地域に住む人々の日々の生活自体を阻害することもある。1960年代ごろから人の環境へのまなざしの変化も手伝って、ツーリズムのネガティブな部分を取り去ったツーリズムを目指す発想が生まれてきた。とりわけ1990年代に入って「エコツーリズム」という旨葉が、旅行業者のパンフレット、政府の観光政策、地方発の地域振興策といったさまざまな場面で見受けられるようになったのである。

しかし、このエコツーリズムは一般に定義が共有されておらず、実態も必ずしも望ましいといえないケースも指摘されるようになってきた。その上、折からの「環境(あるいはエコ)」ブームも手伝った、種の流行ものの観光旅行商品に過ぎない、という冷めた見方もある。というのは、エコツーリズムの目的性、規範的性格に現実にはついていけないという、困難さがっきまとっているからである。しかし、他方では観光振興を目指す途上国の政策としてや、日本国内でも地域振興策として取り組もうとしているところも、増えている。

例えば、日本でエコツーリズムに取り組んでいるひとつ地域として、西表島のケースがある。西表島では日本初としてエコツーリズム協会が1996年に設立された。この協会は西表島島民の主導的役割によって「エコツーリズム」に取り組もうと呼びかけられた運動の結果うまれたものである。本稿では、当協会の設立に至る背景や活動の現状、問題点などについて取り上げた。

本稿ではエコツーリズムに関わるアクターに着目し、各々のターゲットと役割、それらの関係によって引き起こされる問題について考察している。ここではエコツーリズムの代表的なアクターとして、政府、観光業者、地元住民、自然保護団体を取り上げた。各アクターはそれぞれの目的をもっているが、力関係を考えれば、政府と観光業者は比較的主導権を握りやすい。途上国では、政府と外国の観光業者の力が強くなり、エコツーリズムが歪められてしまうことがある。そういった状況に対して、新植民地主義的だとする強く批判もある。通常のマスツーリズムであれば当然とされるが、エコツーリズムの場合は、アドバイザリーに、時には主導的役割を担って自然保護団体が関与する。また、キーとなるのは地元住民であり、アクター間の衝突から直接にインパクトを受けやすい。したがって、その積極的な関与がエコツーリズムの成功には不可欠となる。結局、エコツーリズムをひとつのツーリズムの部門として定着させるためには、関与するアクターの目的意識の共有と役割認識とともに、共生関係を築くことが重要になってくると思われる。

 

 

 

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