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シート8

 

信頼される公務遂行

 

公務が実施する政策・業務に対する評価は、その内容と共に、その遂行方法によるところが大きいと言えます。公務への信頼を高めるには、公務の特性を考慮して、国民から信頼される形で公務を遂行することが大切です。たとえば、下記のような点に留意する必要があります。

 

1 法令・明確な基準に基づく公務遂行

 

公務の遂行は国民の信託を基礎にしており、主権者たる国民が、どのような業務が、どのように実施されるのかを容易に把握できるようにする必要があります。そのため、公務は、国民により直接選ばれる政治家が定める法令に基づき、実施することが求められています。

しかしながら、複雑な現代社会においては、どのような政策をどのように実施するかの判断には、専門知識を必要とし、また、柔軟性・迅速さが要求されます。一方、法令に高度に専門的な政策の詳細を定めることは困難であり、また、法令の制定には長期間を要し、急激な状況の変化に対応して法令を逐次修正することは容易ではありません。

従って、複雑な政策課題に的確、迅速に対応するためには、行政の執行に携わる公務員の裁量を必要とする場合があります。しかし、法令に基づかない裁量行政は、法令が当初予期していなかった新たな現象が生じ、それを放置することにより公益が著しく阻害されるような場合に、緊急避難としてのみ許容されると言えます。そして、問題となる現象を解決するために、できる限り速やかに法令の制定・修正を図ることが、公務遂行の基本と言えます。裁量行政を行うときでも、法令以外の形式、たとえば、内規の形で基準を定め、その基準を公開することにより、国民の理解を得ることが必要です。

 

2 公益に対する国民の理解を得た公務遂行

 

職務を熱心に遂行することは当然のことですが、その職務が公益の増進に結びつかないのであれば、それは単なる資源の無駄でしかありません。民間企業であれば、そのような無駄は収益の低下という形で自己の責任に帰することになりますが、公務では、税金の無駄使いとして、国民全体の損失になってしまいます。

しかし、実際問題として何が公益かは、相対的な判断になり、困難な場合があります。たとえば、年金額の引き上げは、受給者にっては利益になりますが、年金財政を支えている世代にとっては負担になります。また、ある地域に道路を設けた場合、誰でもその道路を利用できるわけですが、その道路周辺の住民が最も大きな利益を受けることとなります。一方、道路建設により車が走行するようになり、環境上の問題が生じるかも知れません。このような道路を国民全体の負担である一般財政支出により建設することが公益と言えるかどうかについては、判断の余地があります。

近年、ほとんどの国では高度経済成長が終わりを告げ、一部の者の利益は他の者の不利益となる、いわゆるゼロ・サム社会を迎えています。そうした社会においては、何が公益かの判断がますます困難になってきていますが、だからこそ、一つひとつの公務が公益に適っているか否かについて、国民全体の理解を得ることが重要になってきています。

 

 

 

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