日本財団 図書館


財団法人日本ナショナルトラストからのメッセージ

創立三十周年を迎えて 山岡通太郎

 

(財)日本ナショナルトラストは旧臘十二月二十五日に創立三十周年を迎えることが出来ました。

この間、本誌読者の皆様を始めとして、会員、ボランティア並びに日本財団その他各団体、企業等の御支援・御協力を賜わりましたことを更めて厚く御礼申しあげます。

御承知のとおり、当財団は一九八四年政府より税制の優遇措置を頂きましたのを契機に、「文化財取得保護計画」をスタートし、本格的な保護事業に取り組んで参りました。

現在、所有・管理しております資産は、白川郷合掌造り民家・トラストトレイン・旧安田楠雄邸・天心遺跡公園並びに墓所・名勝旧大乗院庭園等であります。

この他、(財)日本宝くじ協会の御支援により、葛城の道文化館はじめ各地にヘリテージセンターを建設・運営し、地域の活性化に貢献しております。

さらに、新潟県巻機山の景観保全のほか、日本の美しい海岸美を守る為、全国鳴り砂(鳴き砂)ネットワークの事務局を所掌するなど自然景観の保全にも努力しております。

また、三菱山室奨学金財団の御協力により、元東夫総長加藤一郎先生はじめ諸先生の御指導を受け、諸外国のナショナルトラストに関する法・税制の調査・研究を進めるほか、各地の自治体等の依頼を受け、自然景観・歴史的文化遺産を生かした町づくりに関する調査・提言を行って参りました。

このように、私どもは英国のナショナルトラスト等をモデルに、市民参加による自然と文化の保護活動を進めてきております。

その典型的な側は、一九九六年八月寄贈を受けました「東京都名勝安田楠雄邸庭園」であります。(その経緯につきましては「歴史都市東京の保存 森まゆみ「世界」第六五七号岩波書店を御参照下さい」)

経済情勢きびしい折柄、当財団といたしましては、大正時代の近代和風建築として貴重なこの歴史的文化財の修復のため、マンパワーと資金を傾注すべく、三十周年を契機にこの課題にチャレンジする決意であります。

皆様の更なる御支援を心よりお願い致します。

<(財)日本ナショナルトラスト理事長>

 

編集雑記

「山人の痕跡を辿る」を執筆している高見乾司さんは、由布院空想の森美術館で館主を務めている。その美術館は、地方映画祭の魁で全国的にその名を知らしめた湯布院の町の中心からわずかに外れたところに建っていて、今年で十三年目を迎える。純然たる民間の施設である。由布岳が目の前に通り、周りは蕎麦屋、フランス料理屋としゃれた店が数軒点在している。館を設立した頃は、森に囲まれた静かな土地であったらしい。現在、土俗面を中心に、九州山地の民具、木綿資料、写真と絵画を収集した陳列館がオープンしている。

私が訪れた時、小さなセミナーが開かれており、カクラという言葉について議論を交していた。本特集号でも高見さんが紹介しているが、カクラとは「鹿倉」で、狩りの領域を示す言葉であるという。また、出席者から山の神に祈りを捧げ、お祭りをする場所のこと、またカクラという小字名も多く見られるとの発表があった。

私はこれを聞いて、すぐに神楽の語源とも言われている神座を思い浮かべた。鹿倉は神座なのか。九州の山地に、今も民間に生きている言葉が偶然にも一致したことに感激してしまった。カミクラ、カグラ、カクラこの三つの言葉に何が隠されているのだろうか。多分それ以上の進展は何もないかもしれないが、地元で暮らしている人の話から、私たちには決して見ることのできない山襞の一部に触れることができたのは、なによりの収穫であった。(眞)

 

 

 

前ページ   目次へ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION