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そして、研究をおこなうわたしにとっては、観光化やそれによってもたらされる社会的状況の変化によって変わりつつある住まいの空間を記述し、住まいの理念や秩序の維持や変容について考える絶好の機会でもある。

 

今回は、やや鳥瞰的な視点で平遥の歴史と現在を概観したが、次回からは、住まいにおける理念と秩序、その維持のシステムについて具体的な事例をあげながら考えてみたい。

<都市史・建築史研究>

 

【図書紹介】

中国の生命の樹

 

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私たちが一般に触れる中国文化というと、諸王朝の歴史・文物の研究や紹介といったものがほとんどだ。あるいは、シルクロードのような辺境幻想とか、日本文化の起源をたどる試みとしての、漢族以外の諸民族文化の紹介だったりする。展覧会でも、陶磁器や書といった日本文化が手本とし中国諸王朝の頂点に立つ文物がよく紹介され話題になる。しかし、中国とはいったいどのような国・地域なのか。全体像としての中国に対する実感ある認識というものを、私たちはまだ、ほんとうは手にしていないのではなかろうか。

 

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その点で本書が語ろうとするものは、およそこれまでに描かれた中国文化像とはまったく異なった全体性を提示したものといえるだろう。その特質は、中国諸地域の新石器時代・歴史時代の考古図像と、剪紙や麺花など現代に残る民俗図像とを対比させ、先史の時代から一貫して変わらない中国諸地域民衆の生命思想が形態伝承ととて存続し生きつづけていることを実証しようとしているところにある。このモチーフの証となる一四〇〇点にものぼる考古・民俗図像を紹介しながら、著者は本書ではじめて中国文化史に徹底した叙述を与え、基底の中国像とでもいえる生命感覚の現存を語っている。そして、この生命思想は、じつは世界にも通底する普遍のものではないかとも主張する。一読して驚かされることは、漢族の文化とされるものがじつはその地域にかつて定住した諸族のものであり、こうした形態伝承の地域性は先史時代以来の遠い時間を経て、なお命脈を保ちつづけていることである。昨年秋、韓国の反骨の詩人・金芝河が来日し、東アジアの文化に共通する生命哲学・律呂について講演したが、それは本書が語ろうとするものと深く遠く反響するものかもしれない。農村の女性が伝承する数々の剪紙を楽しみながら、その向こうに新しい世紀に向けた生命思想の試みを思い描くことのできる大切な内容をもつ本だ。(X)

 

 

 

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