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女猪狩りと猟犬の葬送儀礼 山口保明

 

◎鰐塚山の女猪狩り◎

 

鰐塚山(わにづかやま)(標高一、一一九メートル)を主峰とする日南(にちなん)山魂地帯は、南九州の狩場である。一帯には矢立峠(やたてとうげ)・元鹿倉(もとかくら)・黒荷田(くろにた)とかの狩猟地名も多く、たとえば『上井覚兼(うわいかくけん)日記』の天正十三年(一五八五)卯月(うづき)二日の条に、

内山表鹿蔵(うちやまおもてかくら)狩仕候。肝付(きもつき)源八郎殿此外従曽井(そい)衆中四五人被立候。従宮崎衆中三四十人被立候。朝鹿蔵ニ猪・鹿六ッ取候。一ッ拙者射候。柴屋(しばや)にて各へ酒飯振舞候。雑掌なと諸人持来候。不及記候。次之鹿蔵猪・鹿三ッ取候。

とある。これは鰐塚山麓北東端、現在の宮崎自然休養林の狩りで、かなり大がかりな狩組編成による方法である。山麓南東の南那珂郡北郷町北河内(みなみなかぐんきたごうちょうきたかわち)に鎮座する潮嶽(うしおだけ)神社春の大祭には、近隣の猟師たちが猪の頭を献納する習わしで、米良山(めらやま)や椎葉山(しいばやま)の狩猟習俗と共通している。ちなみに、同社においては、狩猟解禁にあたって猟組が「鉄砲揃え」を行い、豊猟祈願と猟期の安全を誓う「猟(りょう)まつり」を催する。

鰐塚山に分け登る道沿いには、山宮社や山の神が祀られており、日南市吉野方(にちなんしよしのかた)の瀬田尾(せたお)には猟友会によって鳥獣供養碑が建立されている。

 

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二月十一日の春の大祭に献納された猪の頭(宮崎県北郷町潮嶽神社)

 

 

 

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