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そして、神事が始まる。拝殿の中央の祠の扉を開けると、そこには前の年に奉納されたままの仮面、鹿の角、御幣などがある。この緑色をした仮面こそ「鹿倉様」であり「鹿倉面」である。鹿倉様にも鹿の角にも御幣が被せられている。鹿倉様の横にはコウザキ、山宮、稲荷、若宮などの幣が飾られている。神官は、これらを取り出し、御幣を新しいものと取り替える。

やがて、笛と大鼓だけの音楽が奏され、白装束の簡素な舞いが一番、奉納される。これが「宮神楽」と呼ばれる神迎えの舞である。続いて、祠から取り出された鹿倉面を付けた舞人が、鹿倉舞を舞う。静かな格調高い舞である。「鹿倉=カクラ」とは、狩りの領域であり、山の神が支配する領域である。ここでは、鹿狩りの神様が鹿倉様で、すなわち山の神なのである。鹿倉祭りこそ、山の神神事と鹿狩りの神事とが一体となった狩猟祭祀である。私の故郷の村では遠い昔に消失した鹿狩りの祭りが、ここではこうして、原始の姿を残しながら伝えられているのだ。そしてそれを伝えている村人とは、山仕事をし、今もなお鹿を追う狩人たちなのだ。私は身体がふるえる思いで、この鹿倉舞を見つめ続けたのである。

鹿倉舞が終わると、もう一番、神送りの舞が舞われて、屋敷原鹿倉神社の鹿倉祭りは終わり、一行は次の集落の鹿倉祭りへと向かう。このようにして、往時は中之又の七つの谷で鹿倉祭りが伝えられていたというが、今は三つの谷の集落にしか伝えられていない。

 

 

 

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