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そんな西米良村の神官さんにとって、一年で最も忙しい時節が新暦霜月の十一月。この月は、村内の主だった家の「氏神祭り」が集中して行なわれるからだ。西米良の中心地にある村所八幡神社は氏子三百六十世帯を抱える。その近くに住む宮司の浜砂実幸さんは、(残念なことに浜砂さんは、平成七年に亡くなられた。現在は息子さんが、その任を引き継いでおられる。)この時期、毎日のように各家に赴かれる。

「氏神祭り」は、先祖を中心にその家がもつ神を祀るもので、その一例を、西米良村平瀬にある田爪家の『氏神祭幣帛帳』にみると、「一、宮本 山神 鹿倉 稲荷 市房 大日。一、森。一、荒神。一、火の神。一、水神。…」

とある。注目したいのは、ここにある「森」を祀ることである。

「森」を祀る家は、ほとんどが旧家で、分家や村外からの移住者の家には「森」はない。家の側や近くの裏山に必ず代々伝わるモリ木という神木を持っていて、白い和紙を彫ってつくる人形の御幣をモリ木に祀るということである。

この祭りを司祭される大正十五年生まれの浜砂実幸さんに、平成四年に、「森」についてお聞きした。「他の所では祭り方幣帛張にカナで『モリ』と記してあるところがありますが、モリとはなんでしょうか」。浜砂さんは「ここで祀る神様の由緒はたいがいわかりますが、『森』はモリといって古くから祀ってきたものを大切に引き継いできただけです」との印象的な答えだった。

 

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森を祀る田爪さん

 

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田爪家の氏神祭の「モリ」の御幣

 

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「オコゼ」の御幣をもつ河野義勝さん

 

 

 

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