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モリを祀る人びと 江口司

 

毎年十一月中旬から十二月(旧暦霜月)にかけて、九州脊梁山地の奥日向と呼ばれる椎葉や米良(めら)の山里では、祝日前や毎週土曜日になると夜を徹して神楽が舞われる。筆者は神楽見学の折、「モリを祀らんと神楽は始められん」との椎葉村のある古老の話を聞いたことから『モリ』について興味をもった。椎葉村では神楽の日にモリが祀られる。

モリとは何だろうか。モリと称される人形御幣のデザイン的美しさと、小野重朗先生の著名な「モイドン」研究を座右において、九州山地のモリを祀る人たちを訪ねるささやかな調査の旅を続けている。その中から、少しばかりの事例と感想を報告してみたい。

 

◎氏神祭りで祀る人形御幣◎

 

九州山地に寺のない村がある。宮崎県児湯郡西米良村。九州脊梁のなかでも急峻な山容で聳える市房山や石堂山に囲まれ、かつて秘境米良荘と呼ばれた所だ。明治初年の廃仏毀釈で寺がなくなり、もともと神仏混交のいわゆる修験道と称される宗教者たちが定住したところで、明治神道の意向もふまえてかその宗教者たちが神官となり、冠婚葬祭や民間医療などの任を現在まで担ってきた。

近ごろでは、村営の火葬場ができたり、村外の葬儀社が式をとり仕切るようになったことで、神官さんの役割も少なくなった。

 

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一九九二年十一月一日西米良村平瀬、田爪家の氏神祭で、鹿倉様におきぬを重ねる故浜砂実幸さん

 

 

 

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