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芝居のような演技とアクロバットは、一見相入れないように思えるが、意外に矛盾しないものである。中国の伝統演劇や、イタリアでかつて栄えたコメディア・デラルテでも、芝居の役者が軽業を見せるから、フィジカル・シアターの方法論は珍しいことではない。フィジカル・シアターはすでに、ジャンルとしてかなり定着しているようである。サーカス芸の雰囲気をいろ濃くのこしているものもあれば、サーカスの祝祭的な雰囲気は消え失せ、文字通りの「フィジカル・シアター」、つまり身体を駆使しながら物語構造を浮かびあがらせるという傾向のものもある。その多くは風刺や皮肉を効かせたコメディ調だが、「DV8」のように強いメッセージ性をもったクリエイティブなグループも存在する。

 

◎今という時代のサーカス「ヌーヴォー・シルク」◎

 

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シルク・バロックの公演作品「カンディード」より。[撮影 丸山智 提供 世田谷パブリックシアター]

 

サーカス界変貌の大きなうねりは、イギリスよりもフランスで起きている。ヌーヴォー・シルクといわれるたくさんの新しいサーカス団の出現である。どうして、それがフランスで起きつつあるのか。フランスではもともと、サーカス、大道芸、放浪芸、アクロバット、パントマイム、道化芸などが人々のあいだで愛され育てられてきた。ここでは、演劇や舞踊などの「高尚」なアートばかりでなく、豊かで大衆的な身体文化が根付いてきたのである。国中に私立のサーカス学校がたくさんあり、国立のサーカス学校も一九八五年に生まれている。そんな環境のなかで、わが国だったら演劇を志したりロックミュージシャンになりたがる若者がいるように、フランスでは十代のころからサーカスを志す若者たちがいる。塾通いの少年少女は日本列島にいくらでも溢れているけれど、「サーカスをやりたい」などという少年少女はいったい何人いるだろうか。

 

 

 

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