夏の間は北海道の高市を廻り、飴細工の露天商を営む坂入尚文さんから電話が入った。七月三十一日から三日間行われる釧路の港祭りで興行するするオートバイサーカスは、一週間前から小屋掛けが始まるから、前日までに釧路で待機していた方がよいということだった。
坂入さんは東京芸大の彫刻科を中退し、友人と蝋人形の見世物小屋を興行するきっかけで、高市の世界にどっぷりはまった変わり者である。決して暴走族上がりではないのだが、見世物小屋ならオートバイサーカスがいいと、そして樽の中を走り廻る選手にも感心していて、なによりも湾曲した樽の造形は素晴らしいと何度も繰り返していた。また、夕暮れ、赤く染まった山に囲まれた岩内でのオートバイサーカスは最高だと絶賛する。
それほど言うのなら一度見てやろう、しかも樽を組み始めていく過程を追いかけてみようと二十三日、釧路に向かったのであった。
霧に覆われ霧笛が寂しく響く釧路港、あいにくの小雨である。梅雨明け宣言もなくだらだらと雨が続く今年の異常気象である。