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分方さんと荷主さん

 

祭りや縁日に、呼び込みの口上がスピーカーから流れ、祭りの雰囲気を否が応でも高めてくれる見世物小屋は、現在、二軒しか興行していない。芸を演じる見世物小屋の人たちを荷主(にぬし)といっている。テントや芸に関する道具一切を持って各地を廻っているからこの名があるのだろうか。小屋を組み上げることを荷主の人たちは、小屋を掛けるというが、その骨組みとなる丸太は分方から調達しなければならない。そればかりか、分方(ぶかた)は土地の興行権を所有しているため、必ず興行する場合、その地域の分方の承諾を得て、二人三脚で仕事を始めるのだ。

 

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靖国神社境内で小屋掛けする大寅興行社の大野初太郎さん

 

そこで東京周辺の興行権を所有する分方の西村太吉さん(松坂屋六五才)と、荷主の大寅興行社の大野裕子さん(五四才)、田村由三郎さん(七八才)から見世物小屋の世界を語ってもらった。

取材した東京靖国神社では、七月十三日から十六日まで恒例の御霊祭りが行われたが、大寅興行が主宰する見世物の小屋掛けは、八日から始まった。例年梅雨時の蒸し暑い気候の中でのことだが、今年は肌寒さを感じる。見世物小屋を組み立て興行を打つ荷主にとっては、ほどよい気候かもしれない。

大鳥居を入った右方の奥まったところに二棟の小屋が組み立てられつつあった。間伐材の九大をバンセンという太い針金で締め付け固定していく。以前は荒縄が用いられていた。

と完成しつつある丸太小屋は、お化け屋敷で、その隣が見世物小屋である。それぞれ横七間奥行き五間、横六間尺×奥行き五間と戸建にしても相当大きな建物である。丸太は四百本ほど用意され、興行の権利を持つ分方さん(松坂屋)から借り受ける。作業は女性四人、と太夫元である初太郎さんの五人の手ですすめられた。いずれも大寅興行の関係者で、鳶職の人は一人もいない。天候不順のため涼しいとはいえ、汗まみれの重労働である。

 

 

 

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