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わが国の歴史学が分化し専門化する以前の時期にあって、今言うところの部門史の諸領域を縦横に扱い、 一編一編風発たる卓論を展開し、それぞれのテーマを執拗に追及している。今日あらためて彼の全著作を仰視するとき、私たちは彼に贈られた「学界の巨星」「不世出の大学者」との形容にすら物足りなさを感じてしまうのだ。大日本地名辞書を頂点とする吉田史学の山容は、まさしく、わが国近代歴史学の大いなる遺産とすることができる。

鋭く現代的課題と切り結ぶ歴史学、未来に対する激しいまでの希求心。そのバイタリティーの原動力はいったいどこにあったのだろうか。残念ながら彼自身は、自らの史学理論や方法論について、体系的にまとめるということはしなかった。回想録、あるいは自叙伝的な著述も残してはいない。したがって、私たちが吉田東伍―その学風の深層、吉田史学の特質を探ろうとするためには、彼の研究の軌跡をたどり、このおびただしい著作群の中に分け入って見るという方法を取る以外にないのである。彼自身があみだした『倒叙法』「易きより難きに入り既知の現在に発り未知の過去に移る」「近きより遠きに至り、低きより高きに登る」という方法に拠ってである。

<安田町立吉田東伍記念博物館主査>

 

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絶筆となったハガキ(1918年1月20日付け、21日消印)

 

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東伍の葬儀・右は東伍の長男春太郎

 

◎吉田東伍年譜◎

 

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