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【建物の保存と活用について】

次に、現状の建物の保存と活用について考えてみたい。旧中林綿布工場は総面積約5,500m2にのぼる規模を持っている。もちろん全面的な凍結保存も考えられるが、活用という観点から見ると全面保存は考えられない。したがって、どの部分を保存し、どの部分を改造あるいは取り壊して新設するかは極めて重要な問題である。今回、その結論を見いだすことは困難であるが、考えるべき留意点をまとめると次のようになる。

 

1] 保存範囲と登録文化財の指定

基本的には厳正に保存及び原型復元するところと大胆に活用を考えて改造するところを設けることが必要と考えられる。そして、保存を講じたところについては、文化財指定を考えるべきであろう。それにより、保存という行為が担保されるし、震災時のような不測の事態に対しての補助措置を受けることが可能となる。とりわけ、熊取町の人達の保存に対する思いを制度として結実することとなる効果は大きい。文化財指定は大阪府の文化財指定や、熊取町の文化財指定も考えられるが、現在最も適切と考えられるのは国の「登録文化財」としていくことであろう。この制度を指定することにより、保存を担保しながら、活用について比較的緩やかに考えることが可能となる。

 

2] 建物保存に関する提言

その他、保存と活用についての提言をまとめると次のようになる。

・博物館ゾーンは建物そのものの価値を活かすために保存を図りたい。用途的に見ても可能と考えられる。

・交流施設や広場を形成するところでは、思い切っての改造を図ってもよいのではないかと考えられる。

・しかしながら、赤煉瓦の壁は出来るだけ保存し、演出等に使用することが望ましい。洲本市図書館のように心地よい空間形成が期待できる。

・建物のうち、受電室、木造の事務所、汽罐室はそれぞれ特徴があり、小規模での建物利用も可能なことから、保存整備が望ましいと考えられる。

・外観的には長大な煉瓦壁が魅力的であり、是非その雰囲気は維持したい。

・のこぎり屋根形状はこの種の建物の象徴でもあり、出来るだけ保存したいものであるが、逆に建物利用の立場からは最も残しづらいものである。しかしながら、工夫によりー部でも保存に努めるべきであろう。

 

【整備の手法について】

当地は約15,000m2にのぼる面積を持ち、建物規模も約5,500m2に達するため、総事業予算はかなり大きなものになる。現在の不況下にあってはその予算確保は非常に難しい課題である。施設内容も多様であり、一つの整備手法で事業を行うことは難しいと考えられる。ワークショップでは、皆で考え、使いながら徐々に整備すべきであるという考え方が示された。しかしながら、実際に整備を行っていくには、何らかの事業手法を採用しなければならない。その考え方について次に示すものとする。

 

1] マスタープランの作成

一気に整備しなくとも、かつ様々な可能性を残した進め方をするにしても、最終形態を考えたマスタープランを作成すべきである。それを基本としながら、逐次修正を加えていけばいい。まず様々な事業手法を研究することを含めた検討を始めるべきと考えられる。マスタープラン策定についても、適切な補助事業を見つけ出すことが必要である。

 

2] 施設整備の基本方向

施設は大きく博物館施設、交流施設、公園・広場(駐車場含)施設に分かれるが、基幹施設となる博物館施設はしっかりとした規定に基づく社会教育施設整備事業が必要であろう。交流施設は様々な可能性を包含させるために、出来るだけフレキシブルな対応が図れる施設としたい。

 

 

 

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