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そのためIOCのIODEの議長であり、オーストラリアの国立データセンター所長のベン・サールが来訪したときに試作品を見せた所、「是非、英語版を作ってIODEを通して各国に配布を考えて欲しい」という要望を受けるほどの高い評価を得た。その後、米国NODC、マレーシア工科大学、ロシアの海洋研究所(ウラジオストック)等のデータ管理・研究者に機会を見て紹介してきたが、いずれからも高い評価を受けている。英語版の作成は、次に述べる改良点と共に1998年度に作業を持ち越し、完成品は1998年度末となる見通しである。

誤りの発生原因を突き止めるため、和歌山水試の例では、疑問のあるデータは測定原簿あるいは野帳に戻って検討した。しかし、一般的には、収集された後で品質チェックを行った場合に、測定原簿に戻って訂正を行うような作業は、膨大な手数を要し、またデータ提供機関に多大の労力を要請することになって、実行は非常に難しい、そのため、多くの場合単にデータに疑義ありとするフラッグを付けて保管せざるを得ないのが実状である。データ提供機関が送付してくるデータの品質管理が限られたものとなるのは、当該機関での業務が終了後に、データ入力されていることに起因する。そこで我々は、品質管理ソフトにデータ解析ソフト、例えば緒量の平面図や断面図の作成ソフト、鉛直プロファイルの表示ソフト、TSダイアグラム作成ソフト、観測表作成ソフトを付加することによって、現場における研究・作業そのものをサポートするように改善することにした。入力されたデータをもとにして、解析作業をしてもらえば、単純なミスはすぐに発見されるであろうし、異常値についても当該海域を熟知した現場研究者の知識を有効に利用して検討してもらえる筈である。

1998年に入って、この一応完成した品質管理ソフトを用いて、すでにJODC/MIRCに収集されたデータベースのチェック・品質管理処理を開始した各層観測・CTD観測資料については、若干の品質管理作業が行われてきているのであるが、それでもかなり多くの疑問データが発見されている。品質管理がほとんど行われていなかったBT・XBTデータベースについては、状況はさらに悪く、JODCと討議しながら、データフォーマットの改訂・エラーフラッグの付加方式の改訂等を実施している所である。また、一部のデータの修正に伴って、修正前のデータが別のルートを通して入ってくるため生じるデータの重複をチェックする目的で、後に述べるメタデータベースに品質管理情報を含ませることを考えている。

先に述べた、“レンジチェック”は、各測定値あるいはその鉛直勾配が、海域・深度毎にあらかじめ設定された範囲に含まれているかどうかを調べるものであるが、現在の所、米国NODCがかなり広い範囲(例えば赤道域を除いた北太平洋全域)で設定した範囲を使用している。しかし、日本近海等で検討するには、これでは余りにも広すぎるし、表層部分では季節変化も考慮する必要がある。また、より合理的な範囲設定には、与えられた海域・深度・季節に対して、観測値の平均値と分散を求めて、例えば平均値から分散値の3倍以上離れたものを異常値とするような解析が望ましいし、海域によってはデータの分布形状の特性(例えば分布に複数の山が生じる)も考慮することが望ましい。そこで、我々は海域を岩手沖と本州南岸沖に限定し、季節変化を検討し得る県水産試験場の観測資料を選び、開発した品質管理ソフトで品質チェックを行った上、諸種の水温等の統計処理を実行しつつある。この海域を選んだのは、一方が黒潮と親潮前線に挟まれた混合水域で我が国周辺では最も複雑な海域であること、一方が黒潮の直進時と大蛇行時で海況が大きく異なることから、データ分布に2つのピークが現れることが予想されるからである。1998年度中に基本的なデータ処理作業は終了できる予定であるが、詳しい検討は1999年以降にもMIRC独自の研究活動の一環としても行いたいと考えている。

 

 

 

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