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第6章 まとめ、今後の課題

 

6.1 まとめ

 

今年度はモデル港湾として尾鷲、須崎港、対象津波として昭和東南海地震津波及び昭和南海道地震津波を用い、震源モデルを昭和東南海地震では1つ、昭和南海道地震では2つ設定して数値計算を行うことにより、津波高分布、検潮儀での津波水位時系列との比較によるモデルの検証を行った。また、作成したプログラム及びデータをワークステーション上に移植し、マニュアルの整備を行った。

200等深線における計算波高と陸岸津波高の比較では、海岸での津波高は計算津波高の概ね2〜3倍の範囲にあるが、昭和東南海地震津波での三重県沿岸のように、海岸が複雑に入り組んだような地形では、両者の比率が高くなる地域が見られ、地形による津波高の増幅が示唆された。また、昭和南海道地震津波では、室戸岬近辺で両者の比率が小さくなっている。これら結果は他の研究事例(相田1979,相田1981)とほぼ一致しており、モデルの妥当性を示している。また、昭和南海道地震津波では2つの震源モデルを用いているが、地盤変動量から求めた震源モデル(Kato1983モデル)では、四国西岸一帯での計算津波波高が過小に計算されており、同一の地震でも、震源モデルの違いによって計算結果に差異が生じることがわかる。

尾鷲港では昭和東南海地震津波を対象としたが、津波高の計算値は実測値の7割程度となっている。また、須崎港では昭和南海道地震津波を対象としたが、2つのモデルで津波高の計算値は実測値と同程度か1.5倍程度となっている。これは、港湾によっては震源モデルから求められる津波高に対して、少なくとも0.7倍から1.5倍程度の幅を持たせて判断する必要のあることを示唆している。

太平洋沿岸での検潮記録と計算水位時系列の比較では、津波の到達時間が検潮記録に対して7分〜10分前後するが、波形については概ね良い一致を見せている。昭和南海道地震津波について見ると、地盤変動量から求めた震源モデル(Kato1983モデル)による計算結果は、津波から求めた震源モデル(相田1981モデル)による計算と比べると相対的に再現性が悪くなっており、断層パラメータの推定に用いた観測結果によって津波の再現精度が変わることがわかる。

これまでの研究により得られた計算プログラム及び図化プログラムをデータと共にワークステーションに移植し、マニュアルを整備した。出力図はカラーで作成できるようにし、図化内容は、津波の計算結果を実際の対策に役立てられるような内容とした。マニュアルには、プログラムの操作方法、地形データ作成方法と共に計算結果の判読資料を盛り込んだ。

今後は、開発したプログラムを実際に運用し、計算結果の判読精度について事例を積み重ねると共にプログラムの操作方法、図化方法について必要に応じた改良を施していくことが課題になるといえる。

 

 

 

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