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6.2 今後の課題

 

港湾や漁港で津波がどの程度の波高や流速になるか、また発生しうる最小水深はどの程度であるかを数値的に予測するシステムが完成した。今後は、地点毎、津波毎に適用し、現実の対策に役立てることとなろう。その出力手法も、視覚的に判りやすいカラー図出力をも採用するなど、工夫が凝らされている。津波危険度の説明に寄与すること大であると期待される。

しかし、出力が判りやすくなるとその反面、これで津波の事は全て判ったとの安易な安心感につながる恐れも出てくる。数値計算は計算でしかなく、その出発点としてどのような断層運動を仮定したか、計算格子を如何に選んだか、使われた海図などの精度はどうであったか、など、結果を左右する重要な計算過程の選択の良否が忘れられやすい。

もっとも、最終利用者がこれらの内容全てを完全に理解する必要があるのではない。ただ、この出力結果は一つの例であって、今度来襲する津波とは必ずしも一致するものではない事に留意した上で判断することを忘れてはならない。

こうした諸点に関しては、前年度の報告書の今後の課題に記した、数値計算の問題点に触れた部分を常に参考にしていただきたい。

さて、平成8年度では日本海の3港、平成9年度では東北地方太平洋岸の3港、平成10年度は東海・紀伊・四国の3港について、それぞれ検討を行った。まず、既往の津波の再現を図り精度を確認した。次いで、いくつかの想定津波についての計算も行っている。

実は、本調査研究と平行するような形で、他省庁の津波対策も実施されていた。その中でも、7省庁[国土庁、農林水産省構造改善局、農林水産省水産庁、運輸省、気象庁、建設省、消防庁]による「地域防災計画における津波対策強化の手引き」が決定、公表されたことは、今後の津波対策のあり方を決めるものであったと云わなくてはならない。その特徴を要約すると、

1]計画津波の決定法が決められた、

2]ハード・ソフトの対策の組み合わせが奨められている、

の2点である。計画津波として、地震地体構造論より予想される最大断層運動で生起される津波と、過去の信頼できる津波で最大のものとを比較して、この二つのうちの大きい方を計画対象外力として採用するよう、奨めている。平成10年度の末調査研究の中で、想定津波として検討されたものは、地震地体構造論による最大断層運動によって発生するであろうものを取り上げており、7省庁の推奨する方法に対応している。

そのほか、以上のような津波対策手法が確定されるのと平行して、気象庁は津波予報の精度向上を図るための努力を重ね、その結果が平成11年4月から開始される量的津波予報としてまとまった。これは津波数値計算を取り込んだものである。

この量的津波予報と本研究で対象とした港湾域の津波挙動との連動を図ることが、今後の重要な課題である。

ここで、量的予報の基となるデータがどのようにして作成されているかを、国土庁・消防庁・気象庁「津波災害予測マニュアル」、館畑秀衡「津波数値計算技術の津波予報への応用」(津波研究の最前線:月刊海洋)を参照しながら概観してみよう。

 

 

 

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