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(3) 残された課題

 

こうして、1995年の地方自治法に始まる地方自治三法(いわゆる一般法、財政法、公務員法)がともかく揃った。

エリツィンは、1997年7月の大統領令(19)により、地方自治改革の第1段階が選挙実施によって達成され、引き続く改革の課題として地方自治の財政・経済的基礎の確立、自治体財政の形成、自治体と国家権力機関の効率的相互作用の組織、地方自治に対する国家的支援措置の実施を上げ、地方自治法令の違反の是正措置を講ずることを求めた。これを受けて、政府は8月にこれを具体化すべくいくつかの方向を提示している(20)。これらの一部は、地方財政法と自治体勤務法の制定で果たされたことになるが、国有地と公有地にかかる土地問題を含む地方公有財産法の制定問題、それに地方税法など課題はまだまだ山積している。第2段階が画されるときがいつなのかは定かではない。

ヨーロッパ地方自治憲章は、たしかにロシアの地方自治法の制定と確立に一定の役割を果たしたし、今後もその政治的利用を含めてしばしば参照されていくであろう。しかし、ロシアの地方自治は、住民自治の機能を基礎におきつつ、団体自治を構築するという構成にはない。いまは、そうした現実はそのようなものとして受けとめつつ、事態の推移を見守るほかない。地方自治の発展は、一方では連邦中央権力による構成主体への介入をつうじて援護され、他方では構成主体の連邦権力の対抗する自主性の結果としての国家介入により制約されるという、政治的抗争の真っ只中にあり、かつその帰趨に大きく制約されるという事態にあるのである。本稿が、地方自治をめぐる状況の一端の紹介という域を出ることができなかったのには、こうした事情があったこともご理解いただきたい。

(竹森 正孝/東京都立短期大学教授)

 

(注)

(1) 『ロシア連邦法令集』1998年15号、法令番号1695。

(2) 『ロシア連邦法令集』1995年35号、法令番号3506。この地方自治法は、その後、96年4月、同年11月、97年3月に部分改正されている。

(3) この点については、松里公孝「『ウドムルチア』事件とは」(北海道大学スラブ研究センター・98年度冬期シンポジウム(1999年1月28〜29日)における報告に際して提出されたレポート)が示唆的である。

(4) ロシアでは、間接民主主義と直接民主主義の結合形態は、後にふれるヨーロッパ地方自治憲章の関連条項とも関連して、重要視されているが、しばしば住民投票や住民集会の強調が代表機関=議会の軽視に運動する傾向もあることに注意は必要である。

 

 

 

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