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さらにいえば、ロシア連邦やハンガリーの制度が、比較的アングロ・サクソン型の性質を備えているとはいえ、その他4か国を含めいずれも理念としての制度と実態の間には大きな溝がある。また、上述した国家目標との関係からみても、地方制度の性質そのものは、中央優位の集権的な制度といわざるを得ないのが実態である。

 

(3) 地方制度の単位

 

通常、ある国における政府活動、すなわち行政サービスを国土の隅々までおよばし、すべての地域社会の維持発展を図っていく活動を、首都に置かれた行政機関のみで行うことが不可能であることはいうまでもない。各地域はそれぞれ事情が異なっており、ロシア連邦のように広大な領土を擁する国はなおさらである。そこで、その地域の事情に応じた行政活動を実施する必要が生まれる。そのため、たいていの国では、一定の地域ごとに、政府活動を行う単位が設けられている。

そのような地域の制度的な単位が、歴史的文化的“一体性”を基盤とし、地域住民の意思に基づいて運営される、“自治”の単位として設けられているときには、それは「地方自治体」である。むろん、その前提となる、一体性は必ずしも明確に確定できるとは限らない。それに対して、地域の単位が、地域の一体性よりもむしろ中央政府の行政活動の便宜性の観点から区切られ創設されるときは、それは「行政区画」である。

いずれの国においても、地方自治体及び種々の行政区画が設けられ、複線的に「地方自治」としての政府活動と、「地方行政」としての国の活動とが実施されているが、それでも地方自治制度が確立されている国では、地方自治体と中央政府の行政区画とが制度的に明確に区分されているといえよう。これに対して、両者が渾然一体としていて、ひとつの単位が、地方自治体であると同時に、中央政府の行政機関であり、それが地方自治の担い手であるとともに、地方行政の実施機関である場合がある。この両者の性格をもっている場合を「地方団体」と呼ぶならば、体制移行諸国において中間団体あるいは広域団体としての「県」がこれに該当することが多い。

連邦制を採用している国の場合は、連邦の構成団体はほぼ与件であり、連邦政府と州ないし邦政府の権限配分が問題となる。ただし、現在、対象とした国の中で唯一、連邦制を採るロシアの場合のように、連邦制を採りながらも、その構成単位が必ずしも自明ではなく、地方制度の改革にともなって、主権を有する自立性の高い単位への昇格要求が起こり、基本構造が不明確になっている場合もある。

単一主権国家及び連邦の州ないし邦内部においては、伝統的な自然村を単位とする自治体を設置する場合、その規模は当然小さく数も多くなる。しかし、国家統合ないし国レベルでの統治の観点からみた場合、あまりに規模が小さく数が多い場合には、行財政能力が低く、行政効率が悪い。

 

 

 

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