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IMOにおける復原性関係基準の動向

 

大阪府立大学工学部海洋システム工学科

教授 池田良穂

 

損傷時復原性規則

IMOにおいて、最近、精力的な作業が続いているのは、損傷時復原性規則の改訂作業である。

損傷時復原性規則については、SOLAS条約の中に、客船に対する規則と乾貨物船に対する規則がある。客船に対する規則は、船のある場所に衝突による破口が開いた時に沈没もしくは転覆をするかどうかを決定論的に求め、どの程度の区画数まで破れても安全かという指標によって損傷時の安全性を評価しようというもので、「決定論的手法」と呼ばれている。一方、乾貨物船規則は、船のどの部分にどの程度の損傷を受けるかを統計を用いて仮定して、損傷によって沈没もしくは転覆する確率を求め、その値が要求値よりも低いことを義務付けたもので、「確率論的手法」と呼ばれている。

後者は、「決定論的手法」のもついくつかの欠点を解消するという意図から制定されたものであり、最初は客船のための基準としてIMO決議「A265」が作成され、SOLAS条約内の決定論的規則と同等のものとして扱われることとなった。

さらに、この客船に対する「A265」をベースにして、乾貨物船に対する規則が作られ、これが現SOLAS条約に盛り込まれている。

ところが、確率論に基づく客船規則「A265」が意外に使われていないことが明らかになり、さらにSOLASの中の規則が客船に対しては決定論、貨物船に対しては確率論と、一貫性がないことが問題とされ、2つの規則をできるだけ統一のとれた1つの規則にしようという雰囲気がでてきた。これに基づく作業が「損傷時復原性規則の調和作業」である。

 

損傷時復原性規則の調和作業

このような経緯で、まず乾貨物船規則と客船規則の調和作業が行われることとなったが将来的にはあらゆる船種に対して適用できる統一的規則にすることが目指すことがうたわれている。また、調和された規則は、「確率論的手法」に基づくものとすることが合意されている。

作業はSLF(復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会)の場、およびCGの場で行われており、来年開催のSLFにおいて成案を作りあげる予定になっている。

 

 

 

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