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I. まとめ

 

カンボジア国の北東部を流れるメコン川主流の両岸の数km以内の範囲に、帯状にメコン住血吸虫症が流行し、その長さはラオス国境から南へ2百km以上におよんでいる。このように、本症の流行がメコン川本流の河岸に帯状にみられるのは中間宿主貝のNeotricula apertaとよばれる小巻貝が本流内に生息しているからに他ならない。カンボジアの北西部からタイへ入った避難民のなかに住血吸虫症の感染者がいたとか、メコン川の支流近くにも患者が発生したという情報もあるが、真偽は疑わしい。このメコン住血吸虫症の臨床症状や病理はフィリピンや中国にみられる日本住血吸虫症と同一で、かなりの慢性期重症例もみられる。

1997年6月に予備調査団がカンボジアを訪問し、プノンペンの保健省において次官のDr. Mam Bunhengと会談し、次官はStung Treng省とKratie省に分布する住血吸虫症はこの国の公衆衛生上きわめて重要であり、その調査と対策について財団の協力を受けたい旨強く要請された。調査団はKratie省の本症の流行状況を視察し、省のカウンターパートと会談し、環境、治安、生活状況も勘案し、財団によるこの国の寄生虫(メコン住血吸虫症)対策計画の実行が承認された。第1回の専門家派遣には1998年1月31日-2月21日の期間、安羅岡一男、松田肇、桐木雅史の3名が小学校児童を対象に血清疫学調査を実施した。

本年度は1998年4月27日-5月11日の期間、安羅岡一男、松田肇、松本淳の3名が派遣された。彼らは4月29日から5月6日まで8日間、Kratieに滞在し、中間宿主貝と動物宿主の調査と、学童の血清疫学調査を実施した。Kratieの3km上流のKlokorの川岸から多数のgamma N. apertaを採集した。今回の血清疫学調査は、Kratieの下流4kmのTalousと、下流18kmのKanh-Chorの2村落の小学生80名ずつ、合計160名から採血し、獨協医科大学における酵素抗体法(ELISA法)検査によって、それぞれ32.5%(26/80)、および12.5%(10/80)の抗体陽性率が得られた。前回の調査結果とあわせて、図1に示すようなカンボジアのKratie省におけるメコン住血吸虫症の分布地図が描かれた。来年度はStung Treng省において同様な調査を実施し、この日のメコン住血吸虫症の全貌を明らかにしたいと思う。また、哺乳動物における感染状況について、牛44頭、水牛16頭、豚3頭、犬45頭、馬2頭、野鼠5頭から得た糞便試料を検索したが虫卵はまったく検出されなかった。

カンボジアの住血吸虫症対策の国際協力は1989年頃からMedecins Sans Frontieres(MSF)(国境なき医師団)がKratieにおいて集団検便と集団駆虫を開始し、かなりの成果をおさめ、現在も続けられている。われわれは前年度からMSFと数回にわたって接触してそれぞれの管掌領域について協議し(笹川記念保健協力財団のプロジェクトは血清疫学、貝学および保虫宿主動物の調査を行うことで双方は合意している。

 

 

 

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