日本財団 図書館


検査は、昨年と同じ方法でおこなった。まず手指を消毒用のアルコール綿で清拭したのち、ランセット穿刺により微量の血液をキャピラリーチューブ内に採取した。血液は遠心して血清を分離した後、防腐剤としてアジ化ナトリウムを加えて4℃で保存し、帰国時に保冷しながら獨協医科大学医動物学教室に持ち帰り、以下の手順で検査をおこなった。

血清は200倍に希釈し、日本住血吸虫の虫卵抗原を用いたELISA法(Matsuda et al., 1984)によって抗体価(IgGおよびIgMクラス)を測定し、吸光度0.2以上を陽性と判定した。正常血清として、感染歴のない獨協医科大学学生の検体を用いて対照とした。

結果を表2に示した。IgG抗体価は感染後長期間にわたって高い値が維持されるが、そのIgG抗体価による評価では、全ての村落で新規の感染者が検出され、調査地域内の住民が、依然として感染の機会に曝されていることが確認された。また、これまでの調査で本症の浸淫度が特に高いMalaboでの陽転率が、他の2村落(San PedroおよびSan Narciso)と比べて高く、Malaboでは現在もなお感染の危険が特に多いことが示された。

 

表2 血中抗体価により評価した小学校児童の日本住血吸虫症年間罹患率

(1997年8月〜1998年8月)

009-1.gif

 

感染の早期には、IgM抗体価が一過性に上昇することが知られており、急性期の患者を診断する際に有効な指標となる。そのIgM抗体価で評価した場合にも、Malaboでの陽性率が3つの村落のうちで最も高く、これによっても、特にこの村落においてこの1年間の新規感染者が多かったことが裏付けられた。

 

3. オリエンタルミンドロ州における一般住民の血清疫学調査

 

我々は、フィリピン・オリエンタルミンドロ州での日本住血吸虫症流行状況を、各村落ごとに明らかにするために、一般住民を対象とする血清疫学調査を1995年から継続して実施している。住居とその住民にはそれぞれ個別の番号を付し、重複のないように検体を採集した。抗体検査の方法は、採血に濾紙を用いるという点を除いては小学校児童の血清検査と同様の方法で、ELISA法によって血清中のIgGクラス抗体を測定し、判定をおこなった。この結果をもとに、各村落の住居ごとに検査陽性者数を表わしたスケッチマップを作成して、中間宿主貝の生息地域との位置関係や地理的な特性を視覚的に理解しやすいようにした。本年度までに住民の大部分について検査を終え、各村落における本症流行の現状を明らかにした。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION