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この傾向は職場など第三者との接触においては、さらに強いと思われるが、これは家族や職場で中途失聴・難聴者の受容がなかなか進まないことを意味しており、実際に職場の人間関係のトラブルやディスコミュニケーションが原因で、諸種の心身の変調が着き起こされて、職場適応や定着が進まないことも少なくない。こうした状況に対しては、企業の産業医や労働管理部門、職業安定所、聴覚障害者福祉機関などと精神医療や心理臨床の分野との連携が円滑に進むことが望ましい。

 

3. リハビリテーションにおけるメンタルケア

 

1)リハビリテーション施設での試み

ドイツでは80年代初頭から、中途失聴者や難聴者のリハビリテーションの必要性が唱えられて本格的な取り組みが始まっているが、そこでは医学的、心理学的、社会的リハビリテーションという全人的、包括的な見地が重視されており、コミュニケーション、心理、職業を焦点にあててリハビリテーションを行い、聴覚障害者が正当な要求を述べて充分に満足し、自信あるライフスタイルをもつことができるようになることを目標としている。

こうしたプロセスが適切に進まなかったり、より円滑に進ませるために、積極的に心理学的ないし精神科医療の技法が応用され、リハビリテーションに精神医学や心理学の専門家が深く関わって成果を挙げている。

4週間の入所により、聴覚障害の受容を促し、自信を回復させて新たな人生を築いてゆくために、個人や集団に働きかける心理療法などが応用されており、必要に応じてより濃厚な精神科的治療が施されるようである。

具体的に言えば、ロールプレイングを始め、サイコドラマ、自律訓練法などのリラクゼーション法、個人分析療法、テーマに基づいたグループセッションなどが応用されている。

これらは多くの難聴者や中途失聴者が、自分自身に過大な要求を課す傾向、すなわち、障害を受けた後の状態や能力に見合った期待や要求を見出し得ず、例えば、相変らず健聴時代の目標にとらわれていて、職場、家庭、地域においてリラックスできず、葛藤に満ちた生活をしているので、心身症のような多くの身体的、精神的な苦痛や疲労をきたしているため活用されているものと思われる。

また、こうした施設でリハビリテーションを受けた者は、地域の自助組織へと繋げられ、施設で受けた経験や成果をさらに発展、強化させることを積極的に行い、日常生活において聴覚障害と上手に付き合ってゆくことを重視している。リハビリテーションの途上にある者にとって、自助組織の中に自分がなるべき役割モデルを見い出すことは、さほど困難ではないであろうし、それがもたらす効果はわかりやすくメリットの大きいものとなると思われる。

また、この施設ではアフターケアも行われており、いわば急性期ないし集中的なリハビリテーションが終了した後も一定期間、修了者を対象にしたセミナーに誘われることになっており、ここには配偶者や家族も共に参加することが推奨されている。

その理由は、既述したように、難聴者や中途失聴者の家族は、障害あるいは障害者を受容して新たな役割やライフスタイルを築かねばならないため、相当の緊張にさらされているので、心理的安定をはかる方策や相談的援助が施されねばならないからであるが、この試みは難聴者や中途失聴者とその家族には好評であるらしい。

こうした全人的、包括的なアプローチにより、聴覚という重要な機能を部分的かほとんど

 

 

 

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