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2.運動能発達テスト

 オゼレッキーや狩野によって作成された運動発達テストは、一系列にならべられた課題を順々に課してゆくすすめかたや、 得点の合計から発達指数(D.Q)と同様なやりかたで運動指数(M.Q)の算定をめざしている点など、対象は運動機能に限られる が、方法は発達テストのものを適用している。
 ただ、テストの項目には、全身的なものばかりでなく、finger testや手指のこまかい操作にかんするものがかなり含まれてい る。イリングワースは、乳児について、手指の動きの程度の方が、運動発達よりは、知能水準のよい指標になるとのべている。オ ゼレッキーらのテストは運動能の発達レベルの判定だけでなく、潜在的に、そこから全体的な発達段階や精神発達を把握し ようとするものと考えられ、この点は後にのべる体カテストと異なる特徴がある。しかし、テストそのものは松井、松田、正木 らの追試研究でのべられているように、項目の重複、難易度の順序性、基準年齢の値などまだ検討すべき多くの点をのこして いる。
 一方個々の項目については、学習やスキルの関与が少ないこと、体力的種目が少ないこと、協応能力や運動速度の発達に主 眼がおかれて選定されていること……などの特徴から、幼児の調整力を究明しようとするさいの有用な手がかりが少なくな い。これらテストが、本来めざした運動発達指数の算定といった総合的評価よりは、むしろ項目個々についての幼児への適用 が考えられてもいいといえる。

3.運動成果の量を見るテスト(以下体カテストとする)

 どれだけはやくできるか……、どれだけ高く跳べるか……、といった課題に対する運動成果の上限値をみるテストは、たと えば児童母性研究会のもの、東京教育大体育心理研究室のもの、幼児体力測定研究委員会のもの、体力科学センター調整力委 員会(試案)のものなど、数も多く保育現場で実施される機会もまた多い。この種テストの原型といえる児童母性研究会(1942) のテストについてみると、まず測定項目は、25m走、立幅跳、布製球投げ、荷重走、けんすい、片足連続跳びといった、異なる体力要 素をもつ6項目からなる。この項目の選定は、当時すでに作成されていた青少年用の体力検定の項目を、そのまま幼児向きに改 良して用いたと作成委員の1人がのべている。前述の発達テストが誕生以後の発達経過の基準化という上向性の方向をもつ ものとすれば、体カテストの方は、青少年のテストを幼児にまで拡張して適用させるという下向性の基準化を意図して作成さ れたといえる。また発達テストは、個々の子どもの発達診断を目的としているのに対し、体カテストの場合は、年齢や保育環境 の異なる子ども集団の特性を把握するために用いられることが多い。さらに、発達テストの場合は、運動発達を言語や対人行 動といった他の系と有機的に関わらせながら、要素から全体の把握を意図するのに対し、体カテストの多くは、体カテストだ けで完結する。むしろ、知的発達や社会的発達の要素はできるだけ捨象し、身体的要素だけを抽出しようと、意図的になされて いる。体カテストにみられるこれらの特性がそのままこれを幼児期に適用する際の問題点ともなる。
 以下、そのいくつかについてふれてみたい。


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