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 今回で6回目を迎えるホスピス国際ワークショップが,1月30日(土),31日(日)の2日間にわたってピースハウスホスピス教育研究所で開催される。今回は,1967年シシリー・ソンダース博士によって設立された英国セント・クリストファーズ・ホスピスから,医療部長のロバート・ダンロップ先生と患者家族サービス部長のバーバラ・モンロー先生をお招きした。過去5回の講師は,いずれも医師と看護婦の組み合わせであったが,今回は医師とソーシャルワーカーという組み合わせで,「臨死期のケアと遺族のケア」をテーマに,前記のようなプログラムで展開された。以下,その内容の要旨を報告する。
 なお,参加者は,全国のホスピス緩和ケア病棟,病棟開設準備中の施設,一般病院などから,また当財団のスタッフも加わり,医師15名,看護婦61名,ソーシャルワーカー4名,薬剤師3名,チャプレン2名,ボランティア6名,その他10名,総勢101名となった。

 

ダンロップ先生の講義から

1.癌の終末期症状とサイトカイン

 癌は非常によくある病気だが組織学的には400以上のタイプがあり,病気の経過はそれぞれ異なり,治療法もさまざまである。しかし,癌が進行し末期の状態になった時,癌の種類に関係なく,共通の症状がみられる。増殖部位と関連した場所に出現する痛みや腫張,また,食欲不振,体重減少,吐気,高カルシウム血症,発熱などが出現する。こうした症状は,癌の増殖によって引き起こされるが,その増殖に生体内の重要な伝達物質であるサイトカインが関わっているという最近の研究についていくつかの症状を取り上げながら説明された。
 サイトカインは体内で必要に応じて産生され,細胞の増殖や成熟を助ける働きがあり,癌の治療にも使われている。しかし,癌細胞の場合,サイトカインを常に産生し,コントロールできない状態となっており,標的細胞のレセプターと結合してさまざまな作用をし,終末期特有の症状出現に関与する。例えば,終末期には,サイトカインが脳の食欲中枢の働きを止め,何も食べていなくても食欲を感じなくなる。サイトカインは痛みの出現にも関与していることが考えられる研究結果があり,痛み治療に新しい対応があるかもしれない。
 また,終末期の混乱せん妄,身のおきどころのなさなどサイトカインの影響が考えられ,こうした症状に対して,これまでのような鎮静だけではない,他の治療法が期待される。その他,眠気発熱,口渇など,癌の終末期に共通して起こるさまざまな症状にサイトカインが関与していることを説明された。
 癌の終末にはまず肉体の衰弱が進行し,しだいに介助を必要とするようになるが,頭ではしたいことがあり,そのギャップに欲求不満を感じる時期がある。その後,日中でも眠気を感じるようになり意識レベルも下がり,心身ともに低いレベルヘと移行していもこうしたプロセスにサイトカインが影響している。ところで,この時期に痛みや混乱が出現するとモルヒネや鎮静剤を使用するが,眠気が出現する。こうした状態をみて家族は薬の影響だと思い,時に医療者に怒りをぶつけてくることもあるが,痛みや混乱出現時には脳が興奮していただけで,全身の衰弱は進行しており,興奮がおさえられると意識も低いレベルに戻り,全体として低いレベルに位置するようになる。こうした事実を図を描くなどして家族に説明していくことが重要であると結ばれた。

 

 

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