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「正直な共感もしくは共感的理解とは,別人の感情や経験の中に自分を置いてみる能力のことである。人は,その過程で自らを失うことなく,他人が感じ,他人が経験していることを理解することができる」。ナイチンゲールもこれと同じようなことを言っています。「もしも,あなたがいままでに経験したことがないことでも,あなたが本当に感じ取ることができるような素質がなければ,看護婦になるのはやめたほうがよい」と。
 そういう意味においても,看護婦あるいは医学生の入学試験の方法は改革されなければならないと思います。現在は,偏差値だけが問題にされていて,人の苦しみや悲しみを感知できるような感性をもっているかどうかのテストはまったくなされていないのです。東京のある有名な国立大学の内科の教授が私に言っていました。「私のところはいわゆる優等生ばかりが入学してくるけれども,大部分が医者としては不適だ。だから,いくら教育しても虚しい」それはまさに選抜の方法が間違っているからです。アメリカでは医学部を受験するのに,まず4年間の大学を終えていることが条件となっていますし,それに加えて必ず病院や福祉施設などで何ヵ月間かの実習があって,病院というところは,このようにして人が病み,死んでいく場所なのだということをよくわかった上で,自分は自分の能力をそのフィールドで発揮したいから医師になりたいのだと志望するといった動機がまず問題にされるのです。どのように人間のいのちが扱われているかということを本当に理解して,「やっぱり私は医者になりたい」という人を大学は歓迎するのです。
 アメリカのハーバード大学では,新入学生の年齢が少し高くなってきているそうです。なぜかというと,大学を出て就職をして,学校の先生になったり,あるいは社会事業をしたり,ビジネスをした人が,私はやっぱり医者になりたいといって,医学部を受験するからです。

 

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