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ちょっとこれは注解を要します。全体性というのはその人の肉体だけでなしに,心というものを考えながら,そこにアプローチをするという意味でしょう。
 また,癒しは最も恐れているものを包むものでもあります。たとえば不安な気持ちでいる子供がお母さんに抱かれますと,子供は安心して寝てしまう。これはまさに母性的なものと子供の信頼感とが自然に子供の心をなごめ,子供の恐れているものをお母さんが守ってくれると思うからでしょう。これこそが癒しという言葉で表現される根源的な内容なのです。
 アクターパークは,「癒しというものは閉ざされてきたものを解放する。そして,硬直し閉塞状態だったものを柔軟化する」とも言っています。心の中にしこりがあって,この状態では私は死にきれないという状態になって苦しんでいるときに,この硬直したしこりや閉塞状態になったものを軟化させ,溶かすような働きがあるものだというのです。
 また,「癒しとは神秘的な体験のときの超越的な永遠の習慣の実感である」。ちょっとむずかしい言葉でありますが,非常に神秘的な体験が癒しの中にも存在するということでしょう。そして「生命への信頼感を体得することである」と。
 いのちへの信頼感とは,母親のそばにいるというだけで怖がっている子供が落ち着くように,患者が一人で孤独のうちに死ぬのでなしに,「私と一緒にいてくれる」というような存在であること自体がこのような効果を現すのです。
 私は先年,カナダのバンクーバーへ音楽療法やホスピスの視察に行きましたが,そこで実に感動的な場面に出会いまし心あるホスピスでのことです。年配の老婦人がターミナルの状態でしたが,そこに身内ではなさそうな中年の男性が来て,老婦人のそばに座って,声を出さないで本を読んでいるのです。

 

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