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知的障害者福祉研究報告書
平成8年度調査報告


ワーキング等議事録

全国グループホーム調査の必要性について

愛知県心身障害者コロニー
発達障害研究所 社会福祉学部
渡辺勧持

我が国のグループホームは、障害を持つ人々が、「地域でともに暮らす」ための住まいとして最近急速にその数を増やし、現在は全国で約1600カ所になった。
その形態は、地域の中の普通の住まいに、4人の知的障害者が1人の世話人(援助者)と暮らし、それを既存の施設がバックアップするという形が一般的である。
このような制度は、欧米のグループホーム施策と比較するとあまりにも貧困な状況と言わざるを得ない。グループホームは、これまで約30年間入所施設の施策を中心に進めてきた日本がノーマリゼーションの理念を実現しようとした、初めての障害を持つ人々の住まいの施策であり、現場では「地域でともに」という理念を実現しようという強い意志と誇りに支えられて、多くの熱意ある人々が新しい展開を試みている。例を挙げれば、次のような実践がある。
* どのような障害の重い人も地域でという理念を掲げ、グループホームを重症心身障害や精神障害の重度の障害の人にも行っている
* 地域の障害者の家族とともに、レスパイト・サービスや宿泊体験入居を行っている
* 地域生活援助の第一線にある世話人の連絡会を結成し、地域生活の可能性を追求している
しかしながら、これらの草の根的なグループホームの活動は、グループホームが地方自治体、国などの多様な補助によって行われており、施設と異なった小さな家での生活が多様な運営方法によって行われているために、国や既存の精神薄弱者愛護協会等の団体による調査が行われていないのが現状である。

ノーマリゼーションが声高に叫ばれながらグループホームの実体がわからないというのは、ふつうの人々にも理解をもたらさず、ノーマリゼーションの推進を遅らせることになる。この1600カ所のグループホームでどのような生活が行われ、そのための援助がどう行われているかを、調査し、その結果を本人、親、世話人および行政に対してわかりやすく伝えることは、障害者がこれから地域で普通の人々とともに暮らす方向へと進むとき必要とされる重要なステップである。

このような現状において、今回、日本財団知的障害研究会にて調査を行う主たる必要性(理由)は、次の4点にある。
1. 既存の知的障害の関係団体が全国のグループホーム調査を実施することには困難な現状がある。
これまで、グループホームは、特に全日本手をつなぐ会が、全国のグループホームの状況を各都道府県の条例等において調査してきた。最近は日本精神薄弱者愛護協会もグループホームの研修を実施している。しかしながら、これらの団体に調査研究を委託するのは、委員すでに検討されたように、以下の理由で困難である。
それは、?@ グループホームの補助主体が国、都道府県、区市町村など多様である ?A運営主体が、入所施設、通所施設、通勤寮などの施設およびグループホームの運営のために作られた運営団体等多様である ?Bホームの形態が小規模であるため多様な活動があるにもかかわらず把握しにくい ?Cグループホーム数の増加。これまでのグループホーム全国調査は、渡辺勧持らが1992年に行ったものがある。しかし、当時グループホームが5の数は17カ所であったが現在は1600カ所を超えている。

2. 新しいグループホーム制度の展開には、調査による実態把握が必要である。
実態が、明らかでないために、多くの新しい試みは、その時、その場で行われ、全体に広まらないのが現状である。
本調査によって基礎資料が明らかになることによって、今後の新しい施策やモデルが考えられる。その内容は以下の通りである。
(1)グループホームの入居者の障害別の実態とそれに対する援助の実態が明らかにきれることによって、障害が重度の人を含むすべての障害を持つ人のグループホームへ、の施策を考えることができる。
(2)グループホームの運営の実態、特にレスパイトサービスの実施や宿泊体験や地域の活動との関係がわかることによって、これからの地域生活援助における新しいグループホームの役割が検討できる。
(3)グループホームの住まい、特に身体障害との重複障害者や高齢者のいるホームの住宅について新しいモデルが提供できる。

3. 地方自治体の補助によるグループホームの実態がわかる
これまでは明らかにされていない地方自治体の補助によるグループホームの実態がわかることによって、地域の通所施設に通う人々のグループホーム展開の動き、国と異なる地方自治体からの地域生活援助への方法について検討できる。

4. 利用者からの直接の声に基づいたサービスが展開できる
これまでのグループホームは、そのよきモデルを考えるときに、利用者に直接聞くことが少なく、主として運営主体側の意見によって考えられてきた。今回は、利用している人が満足しているか、どうかの調査を行うため、新しい視点でグループホームの今後の施策を考えることができる。これらの資料は、今後グループホームの生活の評価、あるいはモニタリングについて考えるときに重要な資料となる。

2. 調査項目について
調査は以下の4調査を実施するが、それぞれの調査項目(案)は以下の通りである。
1. グループホームの運営団体を対象とした現状に関する基礎調査
2. グループホーム利用者を対象としたニーズ調査
3. グループホームを対象とした具体的な援助方法の調査
4. 欧米およびアジア(NIES)におけるグループホームの現状調査
(日本と比較したグループホームの状況を執筆してもらう)

それぞれの調査項目(案)は以下の通りである。
1. グループホームの運営団体を対象とした現状に関する基礎調査
(入居者の状況)
* 年齢、性別
* 障害程度(知的障害、身体障害)と自立程度
* 援助度(身辺自立、金銭管理、人間関係、余暇活動、職業生活)
* 仕事の場(就労か通所か)
* 収入(給与、年金受給)と支出(家賃、食費、共益費等)
* 将来の見通し
* 開設以来の入・退去者

(世話人の状況)
* 一般的状況(年齢、性別、経験年数)
* 同居か通いか
* 勤務態様(勤務時間、休暇、社会保険等)
* 給与
* 交流組織、研修、相談
* 入居者の家族との関わり

(バックアップ施設の状況)
* 施設種別
* 援助対象ホームとの距離
* 援助内容(食事の支度、ホームの会計、金銭管理、保護者との連絡等)
* ホームの増設計画
* 障害が重度の人への対応
* 体験入居、緊急一時、レスパイトとしての利用

(グループホームそのものについて)
* 住まいの状況(建物構造、新築の場合の間取り)
* 設立年度   
* 補助制度の認可年度

これらの結果は、全体の状況について、わかりやすく色刷りで図示する。
また、今後のグループホームのあるべき方向を考えた次のような視点からの分析を入れる。

(重度の障害者をグループホームで受け入れるときの問題)
* グループホーム生活での重度障害とは何か
* 職員をどう配置したか  
* 地域のサービス資源の利用

(通所施設がバックアップしているグループホームの特徴)
* 自宅から入居した場合の特徴   
* 保護者との関係
* 体験入居、緊急一時、レスパイトの運営

(グループホームの展開)
* 年次別展開   
* 県別の展開    
* 補助制度別の展開
* バックアップ施設と年度別展開     
* 運営法人と年度別展開

2. グループホーム利用者を対象としたニ―ズ調査
研究班に本人が参加する。
「グループホーム生活について、よかったこと、わるかったこと」を中心に、できるだけ、具体的な出来事を話し合いの中で掘り下げ、本人の視点からグループホーム生活、地域生活での要望を明らかにする。

3. グループホーム世話人を対象とした援助方法の調査
世話人自身による研究班を構成する。上記1の基礎調査で、客観的な資料を得るため、ここでは、「世話人がいきいきと働けるために」という視点から、世話人の研修方法、連絡会、これからの世話人のあるべき姿についてグループホーム訪問や関係者の話し合いによる分析を行う。

4. 欧米およびアジア(NIES)におけるグループホームの現状調査
日本のグループホームの現状を各区に紹介した後、以下の点についてグループホームの専門家に報告してもらう。
?@ 経年的な入所施設者と地域生活者の統計により施設入所と地域生活とを比較する。
?A グループホームの援助システムを、直接援助者および地域の社会資源からの援助者を中心として具体的に明らかにする。
?B グループホームを支えている制度の説明。

3. 研究組織について
今回の調査は、研究組織のネットワークを構成して実施する。これには経費がかかる。あえてこの方法を採るのは、グループホームが法人の組織下にある現状で通常の郵送調査法は回収率を高めない、という予想のみによるものではなく、以下のより将来的な展望を視野に入れた理由からである。
日本での障害者の地域生活の展開は、始まったばかりである。「障害のある人々も町で暮らせるように」という理念に燃えている人々が、あちこちで自発的な試みを行っているのが現状である。これらの活動の芽は、公的な制度ではなく、法人や個人の熱意で行われていることが多い。このような状態は、今後、日本に地域福祉が根付くまでしばらく続くと思われる。
日本財団の知的障害研究会が今後、「地域での暮らしの実現へ」という方向で研究あるいは事業への援助を進めるときに、今回作られる草の根的なネットワークとそこに参加する人々の協力が役に立つと思われる。


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