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知的障害者福祉研究報告書
平成8年度調査報告


第1章 わが国のグループホーム制度とその動向

3 グループホームに関する調査研究

(1)平成元年度「グループホーム制度の実際的援助に関する研究」

平成元年度(1989年)の厚生省「心身障害児(者)の地域福祉体制の整備」に関する総合的研究の中で、北海道伊達市立通勤センターの福士憲昭氏らが「グループホーム制度の実際的援助に関する研究」として、平成元年度の国の承認グループホーム103か所に対して実態調査を行ない報告した。最終的には発送数106か所に対して有効回答数74か所、有効回答率69.8%と、サンプル数が少ない割には必ずしも高いものではなかったが、主な回答結果は以下のような内容であった。

?@バックアップ施設は入所更正施設と通勤寮で80%を占める。特に数の少ない通勤寮(104か所)の約4割が実施していることに注目される。
?A建物構造は一戸建住宅が73%、集合住宅が24%である。
?B定員は4人が89%、次いで5人が6.7%である。
?C居室は個室が約52%で、面積は5畳以上が66%である。次いで二人部屋が多く、面積は6畳45%となっている。
?D入居者の74%は20代と30代で占められている。
?E入居者の約80%が比較的軽い障害を有し、13%は重い障害を持つ人であった。
?F就労状況は一般事業所が81%、福祉的就労が約14%であった。
?G世話人は74か所に97人(平均1.3名)で定員には必ずしも比例しなかった。
?H世話人は97人中男性が15名、女性は82名で、年齢は20代から70代で、70代(2人)を除き、各年齢層が平均的に勤務している。
?I世話人は53%が雇用契約、44%が業務委託契約である。
?J世話人は60%が通勤型で、同居型は36%であった。
?K世話人の63%は障害者福祉業務の経験を持つが、未経験者も31%を占めた。
?L世話人の多くは木目のの細かい対応を行っている。
?M世話人の約67%(50人)は障害者観が良い方向に変化をしたと答えている。
?N住居の確保は69%が容易と答えたが、12%は容易ではなかったと答えた。
?O世話人確保は69%は容易と答えたが、28%は容易に確保できなかったと答えた。
?P事故防止には69%が建物に何らかの配慮を行い、特に火災の予防的配慮が多かった。
?Q70施設(94%)のバックアップ施設が増設を検討している。

また、この調査のまとめとして今後のグループホーム制度の課題について以下の4点が上げられた。(全文を掲載)

(1)この制度が、精神薄弱者の地域福祉を推進する主要な手だてとするならば、単なる補助制度ではなく法体系の中に明確に位置付け、生涯福祉の観点に立脚したものでなければならない。また、その内容も画一的なものではなく、障害の程度に応じた人的配置に改善すべきである。

(2)障害者が生まれ育った地域の中で、独立した暮らしを営むことを最善とするならば、特定の施設型援助を主とするものではなく、地域の社会福祉協議会やその他団体等の運営も検討すべきであろう。

(3)グループホームの増加と共に、バックアップ施設職員の援助にも限界が生ずるため、地域生活を支える「援助センター」を設置し、適切なる職員配置のもとにサポートが行われるべきである。また、同センターは入居者の財産保全や人権侵害の対応も担うべきで、専門職の配置も検討すべきである。

(4)疾病等により稼働能力の低下した入居者や将来の高齢化に対応する地域住居や就労場所確保の総合的施策を検討すべきである。

(2)平成2年度精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査

厚生省は、平成2年(1990年)9月におよそ20年ぶりに「精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査」を行なった。基礎調査は、全国の精神薄弱児(者)のいる世帯を対象として、昭和60年(1985年)の国勢調査により設定された調査区から、150分の1の割合で無作為に抽出された4,909地区内の精神薄弱児(者)を対象として行われた。
調査対象は1,798人、調査票の回収数は1,579件で回収率は88%、それらの有効回答数は1,539件で有効回答数は86%であった。
基礎調査の結果によれば、在宅の精神薄弱児(者)は、283,800人と推計され、施設入所児(者)は、101,300人(平成2年10月1日)であり、わが国の精神薄弱児(者)総数は、385,100人と推計されている。
基礎調査の回答の中において、生活の場については「グループホームで暮らしている」という回答は、全体283,800人の1.0%、2,838人であった。この数字から、平均居住人数を4人程度と想定すれば、650〜700世帯近い設置が平成2年の段階においても考えられることとなる。

(3)「全日本手をつなぐ育成会」による生活寮.グループホームの概要調査

「全日本手をつなぐ育成会」(以下「育成会」という)は、独自に生活寮・生活ホーム・グループホーム等の調査を行っている。育成会の調査結果によれば、把握された設置状況は以下のようになっている。



最も新しい平成8年(1996年)5月末日現在の各地育成会が把握している生活寮の数は690か所、グループホームの数は921か所、総計1,611か所となっている。
その数は前年度調査よりも247か所増加しており、この傾向は今後とも続いていくと報告されている。(「表A」を参照)
育成会では、この調査に合わせて生活寮・生活ホーム等の自治体の独自補助制度の有無と補助対象数を調査している。(別表)

(4)平成6年度「グループホーム事業のあり方に関する研究」報告

平成6年度(1994年)には、国の厚生行政科学研究事業として地域生活援助事業(グループホーム)実態調査が北海道伊達市通勤センターの小林繁一氏らによって行われた。
調査の対象は平成6年度までに指定された国のグループホーム640か所及びバックアップ施設371施設、世話人、入居者に対して行われ、グループホームからの回答数は433ホーム(回収率67.7%)、バックアップ施設からの回答数は223施設(回収率60.1%)、世話人516人、入居者1,819人から回答が寄せられた。調査結果の考察の中で、「運営」に関する報告は以下のような内容が示されている。

1)グループホームの設置状況

?@1ホーム平均の入居者が4.2人となり、国のグループホーム(640か所)全体にの入居者総数は2,700人と推計される。
?Aグループホームを運営している施設は、施設総数の16%に当たり、1施設平均1.7か所、最高18か所を運営している。

2)入居形態等

?@入居者数は4人が最も多く80%を占めている。
?Aホームとバックアップ施設の距離は、2Km未満が35%、2Km〜5Km未満が31%、5Km以上が34%で、平均4.95Km、最大は41Kmとなっていた。
?B建物の所有形態は、民間賃借が最も多く327か所(74%)、法人所有が88か所(21%)、公営住宅が13か所(3%)であった。

3)職員体制・事故防止

?@開設に当たってのバックアップ施設の職員体制は64%が「変更なし」で、スタッフを増員した施設は全体の1割弱であった。
?A世話人の住み込みが約2割の他、約9割のホームが何らかの事故対策を行っている。

4)開設時の建築費、備品購入等

?@建築費を要したホームは24%で、それらは法人所有の建物と思われる。
?A建築費を要したホームの平均額は1,300万円、最高は6,400万円であった。
?B建物賃借のための敷金・礼金は66%が「無し」で、平均額は14万円、最高は600万円であった。
?C設備・備品購入に要した費用は平均64万円、最高は2,200万円であった。
?D全体を合計した住居の開設費用の総額は平均440万円、最高は6,625万円であった。
?E建物賃借の場合の月額家賃は平均60,482円、最高は339,900円であった。
?F法人所有のグループホームは月額家賃が民間のものよりも12,000円程度安い。

5)入居者の費用負担及び居室
?@入居者の平均負担額は、家賃が14,000円、食費25,000円、その他共益費等が8,500円、計47,500円となっている。
?A入居負担額が賃金よりも高い人たちは22%、年金を足しても赤字の人が9%いる。
?B居室は個室が17%、2入室32%、3入室が0.4%であった。
?C個室の広さは6畳未満36%、6畳47%、6畳以上が17%であった。
6)バックアップ施設の地域生活援助者数とグループホームの退去状況
?@バックアップ施設の地域生活援助者数は、1施設平均16.7人、最高は164人。
?A地域生活援助者のうち、44%はグループホームの入居者、29%が家族同居者で、単身生活者が6%、結婚生活者が5%であった。
?Bグループホーム以外の地域生活援助者を支援している施設は通勤寮が圧倒的に高く、72%であった。
?Cグループホームの退去者は、433ホーム合計で417名、1ホームの平均は0.9人、最高は10人であった。退去先は家族と同居23%、結婚18%(特定のバックアップ施設に集中している)、入所施設14%、他の共同住居14%、単身生活13%、その他27%であった。
7)提言と将来展望
グループホームの開設した所にこの制度の評価を聞いたところ、大変良いが57%、まあまあ良いが32%で、約90%が「良い制度である」と評価している。
3年以内の増設計画の有無は「あり」が63%で、その内訳は1か所が51%、2か所が29%、3か所が10%、4か所以上が3%となっている。開設者からみた増設に際しての困難な点については以下のように報告されている。



また、障害の重い人をグループホームの対象とすべきかという設問に対しての回答は、「受入れ方法を整備して」という条件付きで「対象とすべき」が55%、「施設の方が適切と思う」が17%、どちらとも言えないが20%で、障害の重い人たちの受入れについては、かなり戸惑いが見られると報告している。

調査の回答として、今後のグループホーム制度を拡充するための対策として要望の多いものは、以下の通りである。

?@世話人の身分保障と待遇改善
………… 56%
?A住宅確保のための費用や整備資金を補助対象に ………… 48%
?B独立した援助センターが必要
………… 44%
?C補助金の増額
………… 42%
?D公営住宅をグループホームとして活用できるように ………… 34%

(5)財団法人日本精神薄弱者愛護協会の調査

1996年(平成8年)の財団法人日本精神薄弱者愛護協会が発行する全国精神薄弱者関係施設名簿には、国に指定されたグループホームのみ掲載されており、その数は全体で767か所、定員3,301人となっている。以下に、それら全国9ブロックの設置数・定員数を掲載する。



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