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知的障害者福祉研究報告書
平成7年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


第3章 国内調査

2. わが国の知的障害者に関するビデオ作品

―『社会福祉法人東京光の家』の視察報告― No.2

「旭が丘更生園」の概要

●概要

「旭が丘更生園」は、雇用されることが困難な視覚障害者等を対象とした、身体障害者福祉法上の重度身体障害者授産施設である。
「旭が丘更生園」では点字図書の出版、点字及び一般図書の製本、弱視者用ノートの製作のほか、「旭が丘更生園」の利用者が店員として働いている地域交流ショップを運営している。
建物は3階建てで、それぞれのフロアにおいて違う内容の作業が行われている。
入所部門と通所部門があり、通所している人のほとんどは、歩いて5分から10分のアパートから通っている。この中には結婚している人も多い。




■「旭が丘更生園」利用者の障害区分



■「旭が丘更生園」利用者の年齢構成



●経緯

・この授産施設における作業は、点字図書の製本から始められた。
・その後、利用者に賃金を還元できるようにするため、レターセット等の製作・販売を行うようになっている。

■「旭が丘更生園」作業科目と内容



●作業内容

?@箱折り作業/1階

・紙材を折り目に沿って曲げ、30cm四方程度の箱づくりを行っている。

?A点字図書の製本/2階

・点字図書の製本は一定量の依頼が見込める作業である。
・NHK英会話テキストの点字製本は、昭和44年以来行っている。
また、ここでは、点字によるカタログショッピングの製本も行っている。
・点字の印字は、点字板(鉛板)の間に紙をはさんでプレスして印字する。
・点字製本の作業は、「紙を渡す人」→「点字板でプレスする人」→「その紙を取り出す人」→「取り出した紙をまとめる人」という工程で流れ作業を行っている。

?B弱視・高齢者用ノート等の製作/3階

・弱視、高齢者用ノート等の製作を行っている。
・弱視、高齢者用のノートとは、通常のノートの罫線幅が7ミリなのに対して、罫線幅が12ミリあるもの。

?C地域交流ショップ「アガペ」

・「アガペ」は、昭和58年11月に開店した地域における交流ショップで、旭が丘更生園の園生が店員を務めている。お菓子、日用雑貨、盲人用具、更生園製作品等の販売を行っている。月商は140〜150万円程度。
・開設当初の、利用者はもっぱら園生だけであったが、宅急便、BPを取り扱うようになって、地域の人たちもアガペを利用するようになった。
・ここでは音声の出るレジスターを使用している。レジスターの操作は、視力のある人が担当している。
・各商品に添付されている値段票は、弱視の人にも見えるように数字が大きく記されている。
・金銭の使用は生活の重要な要素の一つであり、園からここを訪れることが訓練の第一歩となる。
・紙幣で使用するのは、千円もしくは1万円札。5千円札は区別がつきにくいので使用していない。
硬貨も同様に5円、1円は他と区別がつきにくいので使用していない。

あなたの灯を今少し高く掲げてください。
見えぬ人びとの行くてを照らすために。ヘレン・ケラー



本映画制作の目的
田中亮治(社会福祉法人東京光の家理事長)

“盲重複障害”、これも医療技術の発達する過程における不可避的な悲しい産物なのだろうか。未熟児網膜症。医学の進歩の恩恵を受けて一命はとりとめたが、障害は残った。ひと頃、これが社会問題となったが、今ではほとんど無くなりつつあると聞く。
それでも盲重複障害を持つ方がたがかなり存在している。これらの方がたを対象とする施設も全国20数ヵ所となっている。
盲重複障害という言葉は、社会福祉界においても、ごく限られた直接の関係者以外には馴染みの薄い言葉でさえある。ましてやその処遇体系――生活自立訓練――に関してはまつたく未確立の状態であり、それぞれの施設は今もって試行錯誤を繰り返している状況と言わざるを得ない。
私たちはこの状況を何とか克服しなければと考えた。そこで、新生園では先に、「盲重複障害者の治療と訓練―その実践記録―」を出版し、処遇実践上のプログラム策定に資することを願って世に問うことにした。しかし文字による表現ではどうしても意をつくせない部分があり、何とかそれをカバーする意味も含めて映像によるものを創りたいとの声が現場から強くあがつた。
幸い、財団法人「三菱財団」のご好意による助成が得られ、映像による処遇マニュアルをも加味したドキュメントとしての映画が完成した。
障害の重荷にも負けずに懸命に訓練と取りくむ園生、職員集団のたゆみない努力と厳しい愛による目標設定。福祉教育や福祉施設の在りかたに、静かではあるが大きな刺激を与えられればとの大それた意図であるが、果たしてどの程度その目的を達し得るのか覚束ないところである。
願わくは、この映画が盲重複障害者の自立とその理解に少しでも役立つならこの上なき光栄に存じるものである。何卒ご指導とご叱正たまわりますように。


重度身体障害者更生援護施設・新生国とは
田中のぞみ(新生園園長)

「園生の多くは盲重複障害者であるとと、その上、若年齢のために社会経験が乏しく未発達な面が多いことに注目し、処遇上の配慮をする。具体的には、対象者に応じた治療および訓練をし、精神的発達を促し、個々の能力に応じた訓練(生活、行動、作業)をすることにより、社会適応性をはかり、社会人として生活出来るように努める」
少し長い引用になったが、新生園は今から10年前の昭和54年4月、以上の基本方針のもとに重度の視覚障害者の訓練施設としてオープンした。ほとんどが盲学校高等部の卒業生である。
現在まで約130名が入所し、そのうち訓練終了者は80名で、その約半数は授産施設で働いている。
彼らの約70パーセントは未熟児網膜症のため、視覚障害や脳障害を併せ持っている。その他の園生たちも生まれつきの視覚障害者が多い。このような重度障害者の可能性を伸ばすための援助をすることが施設職員の役割である。
どんな重い障害を持つ者でも、みんな神から与えられたすばらしいタラントを持っている。これが私たちの基本的な考え方である。


愛の軌跡
川野楠己(元NHK生涯教育部チーフディレクター)

そこにひたむきな情熱と愛を私は見た。
未熟児網膜症からの盲重複障害。これらの人たちは生まれながら周囲の人たちが、どんな行動をしているのかまったく知らない。朝起きたら何をするのか、何故顔を洗うのか、否その洗顔の方法すらまつたく知らない。人のふりを見て我がふりをなおすことの出来ない人たちなのだ。
そのような園生たち52人が新生園で生活をするうちに、布団をたたみ、洗濯をし買物に行くという社会性を身につけることが出来るようになっていく。
この映画は、まさあき君を中心に園生たちの生活が感動的に記録されている。どんな重度の障害を持っていてもひとりの人間としての価値は変わらないのだ……という前提のもとで、指導担当職員との訓練が続く。豊かな経験に医学や心理学的な知識を加え、さらにリハビリテイションの技術をも持った26人の担当者たちが園生の一挙手一投足にも注意を払いつつ、少しでも人間としての価値ある行動を引き出そうと真剣になっている姿が克明に描き出されている。だからこの映画を見ているものの胸を打つ。
未熟児網膜症による失明は、この人たちの犠牲によって後を絶つことが出来た。いわばこれらの人たちは高度な現代医療が生んだ犠牲者なのである。だからこそ社会全体の責任においてその障害を補償しなければならない。
本来、障害は重度化すればするほど、積極的な取りくみが必要である。しかし盲重複障害者の指導・訓練の歴史は浅く、体系化された手引書となるべきものがほとんどなかった。その中でこの映画は、指導・訓練の過程を克明に記録したひとつのマニュアルとしても注目すべきものとなっている。
重度障害者にも多くの能力が隠されているはずである。その秘めた能力を引き出すこともまた、大きな生き甲斐を与えるたいせつなことである……という教育の原点をこの映画は教えてくれる。
施設は、職員の愛によって、単に収容の場から生活する場へ、そしてさらに人間としての希望を生み出す場になるのだ、ということを認識させてくれる映画でもある。
園生を囲む人びとの愛が、感激的で貴重な記録映画を作り上げた。

作品解説

ドキュメンタリー映画「まさあきの詩―盲重複障害者の自立への挑戦」は、盲とほかの障害を併せ持つ障害―盲重複障害というハンデを背負う高橋正秋という青年をとおして、彼の音楽的才能と自立への訓練、そして未だ充分に光があたっていない盲重複障害者の更生に取り組む新生園(日野市・東京光の家)の指導員と園生たちの姿を克明に描いた感動的記録映画である。
この映画の主人公・高橋正秋は岩手県北上に生まれた。生後間もなく未熟児網膜症に冒され、視覚を奪われてしまった。岩手盲学校中等部卒業後、16歳で新生園に入所し、自立・更生のための訓練と指導を受けている。彼は精神発達遅滞で、自閉症をともなっている。
新生園は東京・日野市旭が丘にあり、盲重複障害者の更生に専門的に取りくんでいる重度身体障害者更生援護施設である。新生園は52名の園生に対して、26名の指導員たちが園生の発達指導に重点を置き、不断の訓練を通じて盲重複障害者のノーマライゼーションを目指している。つまり、園生がその障害のため、かつて受けることの出来なかった体験を保障し、その発達を促進させ、授産施設などの施設や家庭など本人に自立させるよう取りくんでいるのである。
とはいえ、盲重複障害者の指導には多くの困難がともなう。
まず、盲重複障害者に対する教育、指導の効果はそう簡単に表われるものではなく、試行錯誤を重ねながらも忍耐強く行わなければならないこと、次に盲重複障害者に対する一貫した処遇対策が確立されていないこと、さらに専門的文献がほとんどないことなど、その道はけっして平坦ではない。
しかし、新生園ではそれらの困難に積極的にチャレンジし、生活面で自分のことは自分で処理出来るようになるための生活訓練、保有する能力をフルに引き出すための作業訓練、園生が自立していくために必要な行動訓練、感覚訓練など、園生一人ひとりの障害の程度に合わせ、個性を見究め、きめ細かい適切な指導が行われている。
映画は、それらの状況を丁寧に描写していく。そして、盲重複障害とはどういう障害であるかの解説にはじまり、それらの障害に日々挑戦する指導員と園生の姿を活写していく。
場面が変わると、正秋にとっては初めての体験である雪のふるさと・岩手までのひとり旅行。家族との団らん、ふるさとの山の温泉旅行、そしてかつて通った岩手盲学校訪問と叙情的な描写がつづく。
さらに、毎年恒例の地域ボランティア協力による日野市・旭が丘ふれあいマラソン大会では、正秋をはじめ伴走者とともに走る園生たちの額には、春の陽射しを浴びて汗が光る。
また、年間の園生一人ひとりの訓練カリキュラムを決める一連の流れ、個人面接→年間評価会議→日課編成会議→日課説明会と職員たちの熱のこもった真摯なやりとりをキャメラは執拗に追う。
最後に正秋と園生、職員一体となった「愛のサウンド・フェスティバル―とどけぼくらのメッセージ」コンサート当日。
このコンサートこそ、新生園が盲重複障害者の更生へ傾けた情熱と不断の努力の大きな成果のひとつである。
満員の会場いっぱいに正秋の歌がひびきわたる。観客は感動につつまれる。
正秋の歌、さらに高まって――。














お問合せ
映画「まさあきの詩」上映委員会

社会福祉法人 東京光の家
〒191東京都日野市旭が丘1-17-17
TEL0425-81-2340



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