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6 今後の課題

 

海面高度計データと海面水温データの複合利用による黒潮流軸推定システムの実用化に代表されるように、前回と今回の調査研究プロジェクトによって、人工衛星リモートセンシングデータを活用した日本近海の海況情報の高度化・迅速化は大きく進展したと言える。とりわけ、今回行われた海洋下層の水温場の推定は黒潮流軸と亜表層の水温場との間に高い相関のあることがこれまでの研究によって指摘されていることから、黒潮流軸の推定をより精度よく行う上にその意義は大きく、わが国の海運・気象、水産などに貢献するものである。また、北大西洋とは異なり、熱の南北輸送の約半分が黒潮やエクマン流などの表層海流によって生じているとみなされている北太平洋においては、ここでなされた亜表層水温場の推定は、北太平洋における熱流量の評価に貴重なデータを提供しえる可能性を示唆しており、北太平洋における気候変動の理解という点においても意義深いものである。

しかしながら、前回の報告でも少し触れたように、海流場の定量的な把握とその予測は衛星データだけでは困難である。衛星の周回により、ダイナミックに変動する海洋現象の経時的な変化を追跡することは可能であるが、時空間的に不均一な衛星データのみから、流速場の変動をコントロールする力学を解析・理解することは不可能にちかい。その解決には、力学モデルを用いて、衛星データを4次元的に同化する手法がきわめて有効である。データ同化手法と呼ばれるこの手法は、客観解析値を得る方法として気象学の分野において開発されたもので、言うならば、力学モデルを用いた観測データのdynamical interpolationであり、dynamical interpretationである。この手法を用いたデータ同化モデルは、観測値とモデル計算値との差をある力学的拘束条件のもとで(双方の誤差を考慮に入れながら)変分法などを使って最小にしようというもので、これによって力学的に整合性のある均質なデータセットを求めることができるだけでなく、同化モデルが循環場の力学の再現性に優れていることから、得られたデータを初期条件に用いて海況変動の予測を行う上に大変魅力的である。従って、例えばナホトカ号による日本海でのオイルスピルや東京湾でのオイルスピルなどによる海洋汚染の予測を的確に行うには、このような4次元データ同化モデルの開発・確立がきわめて重要である。さらに、4次元データ同化モデルによって、海洋循環の詳細なモニタリングが行える。これは、海洋変動の現況を正確に把握し将来を予測するための国際的なプロジェクトであるGOOS(全球海洋観測システム)の推進に役立つ。

海洋のデータ同化モデルにとって特に有益なデータは、広範囲を繰り返し観測できる人工衛星の観測データであることは疑う余地がない。そのため、次頁の表に示されるように、種々のセンサーを搭載したグローバル観測衛星が続々と打ち上げられる予定である。今後は、これらのデータの活用と4次元データ同化モデルによる新たな展開が大いに期待されている。

 

 

 

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