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はしがき

 

この報告書は、(財)日本水路協会が平成8年度と9年度の2年間、(財)日本財団から事業補助金を受けて、水路新技術に関する調査研究事業の一環として実施された「衛星データを用いた水温構造の推定技術に関する研究」の成果をとりまとめたものである。

「広域同時計測」という優れた特徴を持つ人工衛星リモートセンシングは、昨今話題の地球環境変動の動態の把握と理解にきわめて有効であるという社会的認知を既に受けている。そして近年では、昨年(1997年)11月のTRMM(熱帯降雨観測ミッション)の打ち上げにみられるように、衛星データの多様化・高精度化を背景にして、海洋・大気現象のみならず、水資源、土地利用管理、汚染、災害など生物圏・地球圏に存在する諸問題への利用もますます盛んになりつつある。

しかしながら、リモートセンシング技術という言わばハード面での長足の進歩に比べ、時間的・経済的に多大の苦労をして取得した衛星リモートセンシングデータという資源の高次利用というソフト面に関しては、発展途上にあり、これまで以上に高次利用に向けた研究開発の努力が求められている。それは、気象分野とともに、いち早くリモートセンシングデータの利用に着手した海洋分野とて事情は同じである。

このような中にあって、(財)日本水路協会と東海大学が、人工衛星によるリモートセンシングデータを活用した広範囲の海面水温や海流などの海況情報提供システムの本格的な開発に着手されたことは、特筆に値する。まず、平成5年度から7年度までの3年計画で実施された「観測衛星データ利用による海洋情報高度化システムの調査研究」において、熱赤外画像解析上の難題である雲域除去に関して効果的なアルゴリズムを開発して、NOAA/AVHRRによる海面水温データとTOPEX/POSEIDONによる海面高度計データの迅速な処理システムを作成するとともに、海面高度計データと海面水温データとの複合利用によって、日本周辺海域の海況、とりわけ黒潮の流路の高精度推定システムの開発に成功した。本調査研究は、この研究成果に引き続き、さらに日本近海の海況把握システムを高度化するために、上記の衛星データを用いた海面水温時系列マップデータセット構築システムと過去の水温統計資料を併用した下層の水温分布推定手法の開発を目的として実施された。前者については、黒潮・黒潮続流域だけでなく、観測データが不足している日本海(特に冬季)もカバーした時系列格子データの作成に成功を納めている。その時系列マップは見事である。後者は、海表面情報しか計測できない人工衛星リモートセンシングデータから下層の水温構造を推定しようとする世界的にみても最先端の課題であり、しかもそれを変動の激しい黒潮域で試みようとするきわめてチャレンジングな問題である。黒潮域における水温場の統計資料と衛星データのEOF解析を行うことによって、衛星データを用いた下層水温分布の推定についてはかなりな精度での成果をあげたと言える。今後は経験を積み黒潮の直進・大蛇行流路などに関連したエイリアジングの問題など他を解決してより一層発展されるよう期待する。

以上の成果は、当初の目的を十分に達成しえたものであり、航海の安全ならびに海難発生の折りに有益な基礎情報を提供しえるものであると判断される。これらの成果が海運、水産分野をはじめとする社会の幅広い分野で活用されることを願ってやまない。

 

平成10年3月

 

衛星データを用いた水温構造の推定技術に関する研究委員会

委員長 淡路 敏之

 

 

 

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