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2.航法による操船への影響

 

2.1操船者の意識を考慮した指標による比較

 

2.1.1操船シミュレータ実験結果への適用・解析

操船シミュレータ実験は全部で15ケース実施された。これらの実験の過程においては実験の立ち会い人が航行中の安全感覚を時系列に評価している。

まず、ここでは、先に述べた環境ストレスモデルをこれらの操船シミュレータ実験の結果に適用し、今回開発した操船者の意識を考慮した指標値の出力が、立ち会い人によるレイティングの結果とどれほど合致しているかを解析した。

図IV-2-1から図IV-2-15は、全実験15ケースについての比較結果をとりまとめたものである。

図の上段は、立ち会い人によるレイティングの結果を示している。

図の2段目は、環境ストレスモデルによる指標出力値を示している。環境ストレスモデルによる指標値は操船上の行動制約に伴う困難感を表している。そして、その山が高ければ高いほど、周辺の地形条件、潮流条件、他船が形成する交通条件などが操船者に大きな困難感を与えているとみることができる。

地形制約や交通混雑に起因する操船の困難性が大きい場合、往々にしてそこで実行される操船には大きな危険性が包含されることが多い。しかし、容易な操船環境でも大きな危険をはらむ操船が行われることもある。このように考えると、操船の困難性と危険性は独立に評価できることが望まれる。しかし、環境ストレスモデルの指標出力値は操船の困難性の程度を表現するものであり、操船過程に潜在する危険性の程度は表現しない。

そこで、ここでは、あらたに危険性の程度を数値表現できる指標の導入を試みた。図の3段目に、潜在的操船水域(Potental Area of Water, PAW)の概念を基にして求めた危険顕在化のポテンシャルの高さを指標値化した結果を示している。なお、最下段にはその操船過程において取られた操舵舵角も併せて示している。

潜在的操船水域(Potential Area of Watte, PAW)とは、各時間断面において、そのときの操船状態がこのまま継続するとしたときの船体運動の軌跡を求め、このときの予測航跡がスイープする水域エリアを意味している。参考図は、実験ケース1-1について潜在的操船水域を求め、その結果を例示したものである。ここでは、300秒間の船体運動軌跡を求めている。

ここに、一連の操船過程に包含される危険のポテンシャルは以下のような考えのもとで数値化する。つまり、ここに求めた潜在的操船水域を基に、このときの予測航跡が陸岸に乗り上げたり、または、他船と衝突するまでの時間に着目し、そして、この乗り上げや衝突の危険が顕在化するまでの余裕時間を用いてその操船内容に包含される危険のポテンシャルの高さを表現しようとするものである。

図の3段目にはこのような余裕時間をプロットしている。この余裕時間の山が高ければ高いほど、そのときの操船にはより大きな危険性を包含していたとみることができる。

 

 

 

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