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転換点を迎えたマス・ツーリズム

 

近代観光は、誕生して以来、1世紀以上を経ました。この間にさまざまな展開を示しながら、少しずつ矛盾点や問題点が現れてきました。環境問題との関わりでは、大量性と平等性に代表される近代観光は、環境保全・環境保護の問題に、基本的に無関心でした。

断崖絶壁の続く、険しいけれども見ておもしろい海岸があったとします。その海岸線が美しい、感動的だと思われ、景勝地として観光の対象とされるなら、そこになんらかの開発が必要になります。海岸線一帯に遊歩道が整備され、大きな岩が露出したところには、岩の崩落を防止するネットが張られたり、見晴らしのよい場所には展望台がつくられたりします。そうして完成する観光地は、もはや自然のままの海岸ではありません。安全に整備され周到に計画された、いわば加工された自然です。もしその地において、こうした自然の加工が企図・計画されなければ、その海岸は地元の人にとっては、日常生活の単なる背景にすぎません。あるいは、遊歩道が整備されていなければ、それは危険な場所であり、そこに近づくには体力も必要ですし、多くの人は見ることができなかったでしょう。だれもが平等に楽しめることを基本理念とする近代観光とは、無縁のものとなってしまいます。

 

 

 

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