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次は公共交通機関の情報提供です。ここに挙げましたのは、いわゆるプレトリップの情報提供です。最近とくに、インターネットを通じた情報提供が積極的になされており、使い方によっては便利なところまできております。一方、オントリップでの情報提供は、まだまだ寂しい状態ではないかと思います。とくに自動車利用では、VICSがあります。情報環境は高度化してきていますが、それとのギャップが大きいように思っています。

私は、公共交通の利用者を対象とした情報提供システムの必要性を、機会あるごとに訴えています。最近では常識になってまいりましたが、車内での情報表示。乗客が、それを手元で見たり聞いたりできるところから始めて、提供する情報をきめ細かくできればと考えております。観光を視野に入れますと、歩行者用のナビゲーションシステムに発展できれば便利になるのではないかと思います。

最後に、交通の立場から観光交通にふれたいと思います。最大のポイントは、環境問題をふまえたとき、観光は悪だと決めつけられる恐れがあるのではないかということです。自動車公害の問題が叫ばれたときに、同じようなことが言われたからです。

交通というのは派生的需要が大半ですが、それは別の目的のために交通するものです。どちらかというと、水やエネルギーのように、交通を伴わない輸送に転換することが本来理想的で、場合によってはそれが可能になります。これに対して、観光交通は本源的需要の要素が強いためになかなか削減できない。最後まで残る交通ではないかと思っております。環境教育という面でも、観光交通は役割を果たすのではないかと思います。

これからの観光交通として、公共交通の利用と徒歩主体の「楽しい観光」を追求していただきたいと思います。RV車で走り回るエコ・ツーリズムやグリーン・ツーリズムというのは、まったくナンセンスです。観光は、なんらかのかたちで非日常性を求める行為だと思いますが、なににそれを求めるかというとき、たとえば時間の流れ方がふだんと違ってゆっくり流れるように感じられる――そういうことを求めるようになれば、資源を浪費するようなかたちではなくなるのではないかと思います。

和歌山県で環境シンポジウムが開かれることは意義深いと、私自身は思っております。まちがっているかもしれませんが、私は熊野詣でのテーマは「絶望からの蘇生」だというように聞いた記憶があります。いまは、地球環境の将来が絶望的だという見方もあり得るのではないかと思います。それが再び明るい将来を取り戻す。その方策をこの熊野詣の地から発信できればと考えております。

 

 

 

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