日本財団 図書館


12月8日、閣僚級会議の初日に、橋本首相が開会宣言をし、前述したように、ゴア副大統領がスピーチし、現実的な数値目標と目標年、市場メカニズム(の尊重)、主要な途上国の意味ある参加等の条件を満たす包括的な合意ができるのであれば、柔軟性をもって交渉するよう代表団に指示したのである。この指示によって、米国政府代表団は具体的な交渉に向けて動き始めた。ということは、会議自体が動き始めたのであった。

そして、その後の徹夜の交渉も含めて11日朝までの間にどのように展開したのかは、多くの新聞や雑誌に報告されている。「読み違え、日本側は混乱 ― 米国が先に日本を超える5%でもと言い出すと、日本代表団は混乱状態になってしまった」とか、「振り回される日本」等の表現が多いが、そのような状態を生み出したのは、議長国である日本なのである。他国のせいではなく、日本政府代表団の問題なのであることを、ここではっきりとさせておきたい。

最後のだめ押しのような出来事が、ゴア副大統領から橋本首相への電話である。それは10日朝、アイゼンスタット米国務長官が「日本6%、米国7%、EU8%」という数字を日本に打診すると、通産省幹部は「6%なんて絶対にできない」というわけで、日本政府代表団の内部で調整がつかなくなった。昼、アイゼンスタット米国務長官がホワイトハウスに電話をし、日本さえ5%から動けば、三極で合意に達するというもの。夜間飛行で来て、17時間の京都滞在から13時間以上の夜間飛行で米国に戻った直後、ジェットラッグでまだふらふらのゴア副大統領が、米国現地時間で10日午前2時に、京都から約3時間の距離で京都会議場には数時間も滞在することの無かった議長国の首相に、東京が昼間の3時に、このような主旨の電話を入れたという。まず、ホスト国としての橋本首相のリーダーシップを賞賛してから、ほんのわずかな%で合意ができないとはホスト国として何とも格好が悪いのではないかと。そして、橋本首相は6%を決断したという。

日本政府代表団のこの混乱は、もともと、日本政府内のこの気候変動の根本問題を時代的に、哲学的に、未来学的に、倫理的に、そして、外交的に、もしかすると、政治的にも理解できなかった人たちが、「温暖化対策は経済政策でありエネルギー政策。この会議は、各国が経済利益を主張しあう通商会議でもある」と

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION