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が製造物を引渡した時点、つまり製造業者等の支配を離れた時点において存在したものに限られ、引渡した後の流通の過程において何らかの原因で生じた欠陥については、賠償責任の対象とならないとされています。「欠陥により」とは、製造物の欠陥と損害との間には相当因果関係が存在すること、すなわち、このような欠陥があれば、通常このような損害が発生し得るという関係がなければならないということです。「損害」は、他人の生命、身体又は財産を侵害したものでなければなりませんから、精神的な損害については、ここにいう「損害」には含まれないものと解されます。「その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない」とは、損害が当該製造物自体のみにとどまり、他に拡大していない場合は、製造物そのものの欠陥として、損害賠償責任の対象とならないということです。製造物そのものの欠陥は、単に品質上の欠陥にすぎず、そのような欠陥のある製造物そのものの損害は製造業者等の瑕疵担保責任(売買の目的物に隠れた欠陥がある場合に、売主が買主に対して負う担保(補償)責任のことで、隠れた欠陥とは通常人が発見できないような欠陥のこと、民法第570条)あるいは債務不履行責任(同法第415条)として賠償責任を請求すれば足りるからです。

以上のような製造物責任の考え方からすれば、欠陥製品によって被害を受けた消費者は、メーカーの過失を立証できなくても製品の欠陥さえ立証できれば損害賠償を受けられることになります。例えば、テレビを見ていたところ、突然テレビから火が出て火災となったような場合、その原因がテレビの構造上の欠陥であると立証できればテレビのメーカーに対し従来よりも容易に(メーカーの過失を立証する必要がないという点において)損害賠償を請求することができる仕組みになったわけです。

なお、製造物責任に関連して製造業者等の免責事由(製造物責任法第4条)などについても触れなければならないのですが、ここでは紙面の関係上割愛することにします。

イ 製造物責任法と失火責任法との関係

製造物の欠陥に起因して火災事故が発生した場合、失火責任法の適用があるのかどうかの問題については、これを論究した文献は現在のところ見当たらないようです。

しかし、製造物責任は、本来、欠陥商品に対する被害者(消費者)の保護を目的とし、そのために製造業者等の無過失責任を認めているのですから、重過失がなければ賠償責任がないとした失火責任法を適用したのでは、製造物責任法の立法趣旨が没却され、その目的を達成することができない等の理由から、失火責任法の適用は排除されるべきものと考えられます。

むすび

以上、火災をめぐるいろいろの法律責任の問題について、できるだけやさしく、そして、ごく簡単に概観してきましたが、火災は、 一般に私達の身のまわりにあまねく存在する可燃物と火気、そして人の行為(主として不注意)の組合せによって惹起されるものですから、すべて私達の生活に身近な問題なのです。とすれば火災をめぐる法律責任の問題もまた身近なものといえるでしょう。

矛盾した言い方のようですが、「火災は恐ろしいけれど、けっしてこわいものではありません。」というのは火災は起きてしまえば、たしかに恐ろしいものですが、変質者等による放火の場合は別として、火災のほとんどは過失によってひき起こされるものである以上、ちょっとした注意によってたやすくこれを防ぐことができるはずだからです。

「地震・雷・火事・親父」の教訓ではありませんが、防ぐことができたはずの出火によって悔いを残すことのないよう、そして無用の法律責任を問われることのないよう、防災上安全で平和な生活を送りたいものです。

主な著書

消防行政法要論(東京法令出版)

消防措置命令の解説(東京法令出版)

消防法令解釈の基礎(東京法令出版)

消防刑法入門(近代消防社)

消防職員のための立入検査の法律知識(近代消防社)

主な執筆書

火災予防査察便覧第一編・第五編(東京法令出版)

違反処理関係行政実例集(東京法令出版)

査察執行要領第一編(東京法令出版)

予防査察の要点(近代消防社)

消防判例の要点(近代消防社)

 

 

 

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