“焼けるものより火の用心”
草笛光子さんが、NHK連続テレビ小説「あぐり」(月―土曜前8:15)で、明治、大正、昭和の激動の時代を生きたカフェのママ世津子を演じている。
「あぐり」は芥川賞作家吉行淳之介さん、理恵さん、女優の吉行和子さん三兄妹の母、吉行あぐりさん(89)の「梅桃が実るとき」が原作。洋髪美容師の波乱に富んだ半生が描かれている。
世津子は元芸者で、女っぽくて優雅な女性。「原作にはない役です。役柄についていろいろとイメージをふくらませられます。その反面、怖い気もします。昔は恋を含めていろいろあった人。これからどうなるか、自分でもそれが楽しみでもあります」。戦争にも巻き込まれていく。
草笛さんはこの夏、もうひとつ戦争体験をテーマにしたドラマに出た。8月6日放送のテレビ朝日系「はぐれ刑事純情派」で、浜松市郊外に疎開した少女が、戦争の傷あとを引きずり、それがもとで殺人事件に巻き込まれる昭和ひとけた世代を演じた。自分のちょっとしたわがままで、疎開先きの保母さんの家族を浜松空襲で死なせてしまう。これがいつも重荷になっていたのだ。夜空をこがす空襲の炎。その炎の下で何人もの尊い生命が奪われた。
ウナギ養殖場のオーナー役だった草笛さんは、浜松ロケで、かいがいしくウナギの世話。当然、食事にはカバ焼きが出る。だが、草笛さんはそれに手をつけない。「わたし、ウナギはダメなんです」と言う。空襲で焼ける町。焼けるものを見るのは嫌になったのか――。「SKD(松竹歌劇団)時代、ウナギをさばくところを見たことがあります。その時、ウナギがキューッと鳴いたんです。それ以来、あのシーンを思い出し、ウナギがかわいそうで食べられなくなりました。」それが養殖場のオーナー役。何万匹のウナギを見て尻込みしたようだ。
ドラマ、私生活で焼けるものにはかなりの抵抗感がある草笛さん。もっぱら火の用心――。
(インタビュー・編集部)