(消防法第36条の3)、これは偶発的に生じた損害に対する市町村の結果責任を認めたものです。
3 火災と刑事責任
火災と刑事責任というのは、放火をした者、過って火災を発生させた者、火災の際に、人の生命・身体や財産などを守る義務があるのにその義務を怠って人を死傷させた者、消防官などの消火活動を妨害した者などが刑法上の責任として、どのような刑罰を受けることになるかという問題です。
(1) 放火罪
放火は、故意に火災を発生させ、不特定多数人の生命・身体や財産に対して危害を加えるおそれのある反社会性の強い犯罪です。
したがって、放火犯に対しては、どこの国でも殺人犯とならんで重い刑を科しています。
平成8年度のわが国の火災原因をみると、放火が、6,169件、放火の疑いが5,136件、合計11,305件となり、たばこを抜いて第1位を占めています。
江戸時代でも火災の原因で最も多いのは、放火でしたが、見せしめのため、直接放火した者や放火をそそのかした者に対しては、火焙りの刑という厳しい刑を科し、その再犯の防止を図っていたようです。
現行刑法の放火罪には、現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪、建造物等以外の放火罪、延焼罪及び放火予備罪があります。
ところで、これらの放火罪に共通する基本的な行為概念として、「放火」と「焼損する」ということばがありますので、まず、このことばの意味について触れておきましょう。
「放火」というのは、火力によって(火を使用して)一定の目的物の燃焼に原因を与えるすべての行為をいい、積極的に火をつける場合だけでなく、すでに燃焼している目的物の焼損を助長する行為(例えば、油を注ぐ行為など)や容易に消し止められる火を消さないで、焼損するまで放っておく消極的な行為(不作為)も含まれます。「焼損する」というのは、火力によって物を損壊することをいい、放火罪は焼損によって既遂に達します。どの程度損壊したときに焼損した(既遂に達した)といえるかについては、?@火が媒介物を離れて目的物に移り、独立して燃焼を縦続することができる状態に至ったときに焼損があったとする独立燃焼説、?A火力によって物の重要な部分が焼失し、その物の本来の効用を失ったときに焼損があったとする効力滅失(却)説及び?B物の重要な部分が燃えあがったときに焼損があったとする折哀説がありますが、通説、判例は、?@の独立燃焼説をとっており、もちろん実務上の処理もこれに従っています。『(後)は10月号に掲載します。』
執筆者略歴
・昭和4年生茨城県日立市出身、中央大学法科卒
・昭和29年東京消防庁に行政職として入庁し、消防法令の研究・指導、違反処理及び行政争訟の対応業務等に従事するほか、消防大学校、都道府県消防学校及び各消防本部の研修等に出講
・平成元年定年退職、同3年まで東京消防庁消防学校の行政法の講師、現在、茨城大学教養教育担当の講師(非常勤)
・主として消防法関係の執筆にたずさわるかたわら、消防行政及び市民生活をめぐる身近な法律問題などについて各地出講(日立市在住)
主な著書
消防行政法要論(東京法令出版)
消防措置命令の解説(東京法令出版)
消防法令解釈の基礎(東京法令出版)
主な執筆書
火災予防査察便覧第一編・第五編(東京法令出版)
違反処理関係行政実例集(東京法令出版)
予防査察の要点(全国加除法令出版)